PHASE-1187【英雄灰輝】

 胃が穴ぼこになるのも嫌なので、ここはしっかりとお断りしよう。


「あのけっこ――」


「いま国宝と言ったか!」

 胴間による大音声にて、俺の結構を遮るのはギムロン。


「なんでここでギムロンが鼻息を荒くするんだよ」

 凄いよ。口からだけじゃなく、鼻息からも強烈な酒気が漏れているよ……。

 どんだけ飲んでんだよ……。


「これが興奮せずにいられるかい!」

 お前のは興奮じゃない。怒号だ……。

 酒乱かよ……。


「なあエリスよ。この国の国宝で鋳塊っていやぁ、ワシは一つしか思い浮かばんぞ」


「ギムロン殿の予想は当たっているかと」


「ミスリルだの!」


「はい」

 なんだミスリルか。

 って、本来は思ってはいけないんだろうけどな。

 最近はそれ以上のモノばかりを目にしているから、感動がない金属名になってしまった。

 質のいい金属程度にしか思っていない俺がいる。

 表情に出さないだけ俺は偉いと思うけどね。


「おっと会頭。感動が薄すぎるぞ」

 一々と指摘するんじゃないよ。失礼な男と思われたらどうするんだいギムロン。

 せっかく表情には出さなかったのに。感情で悟らないでくれ。

 喜びの表現は顔に貼り付けるべきだったかな。


「会頭、そんじょそこらのミスリルと一緒だと思っとるようだの」


「違うのか?」

 俺が思うのもなんだが、そんじょそこらのミスリルって何だよ。


「その返しからして並のミスリルだと思っていたようだの。冗談じゃないぞ!」

 だからなんでギムロンが怒るんだよ……。

 酒乱かよ……。

 近づかないでよ。酒臭くてかなわない……。


「言うたれエリス。お前んとこの国宝の名を!」

 まずはその前にエリスに対する言葉遣いをどうにかしようか……。

 今までの付き合いからエリス個人としては問題ないんだろうが、氏族や他のエルフなんかが集っている場所では行儀のいい口調になってほしいものだ。

 時と場合を考えてほしい。


「師匠にはこの国の宝である――英雄灰輝サリオンミスリルの鋳塊をお渡しします」


「サリオ――」


「フォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!」


「ギムロンうるさい! いい加減にしろよ!」

 俺の言葉を遮るな!


「コレが騒がずにいられるかい! 英雄灰輝サリオンミスリルじゃぞ! 英雄灰輝サリオンミスリル!」

 この興奮のしよう――酒乱が原因じゃないようだな。

 金属や鉱物にうるさいドワーフがここまで興奮するってことは、よほどの代物なんだろうな。


「そんなに凄いの?」


「最上級のミスリルよ! エルフ達が長い年月をかけてルーンによる文字を刻み、そこにマナを加えていく。ドワーフも驚くほどの長命であるエルフだからこそ出来る芸当。英雄灰輝サリオンミスリルにて作られた武具は緋緋色金ヒヒイロカネすらも凌駕する! この世界にて人工的に作られた金属の中でいただきに到達する代物よ!」


「マジでか!」


「会頭は火龍の装備だからどうしてもそれ以外が霞んでしまうかもしれんが、コイツは別物! この世界に住まうエルフ達の意地が、この世界の調律者である四大聖龍リゾーマタドラゴンに並ぼうとするところまで来たわけよ。それが英雄灰輝サリオンミスリルじゃ!」


「すげい……」


「だから凄いって言ってんだろうがい!」

 なんでエルフの国宝をドワーフが代表してドヤッてんのかが分からないけどな……。


「そんな大事なモノを賜ってもいいのかな?」

 俺には過ぎた代物ですよ。

 俺よりももっと相応しい存在がいると思うんだけどね。

 

 この場にいる人材なら――、


「ベルやゲッコーさんが貰った方がいいんじゃないかな」


「私は陛下から賜ったレイピアがあるからいい」

 ゲーム内のプロニアス帝国皇帝から拝領された業物がある以上、それ以外は必要ないとのこと。

 まあベルの場合は業物を使おうが、なまくらを使おうが関係ないんだろうけど。

 弘法筆を選ばずってやつだな。ベルはなまくらであっても名剣に変える事が出来るタイプだもんね。

 でもゴロ太が作ったナイフは欲しがったよね。――と、ここでは口に出すまい。


「俺もいい」

 と、ゲッコーさんもお断り。

 これ以上、武器を増やす必要はないとのこと。

 宙空から様々な銃火器を取り出すことが可能ですもんね。


 よくよく考えると、ラノベ作品では主人公がアイテムボックスを有している作品もあるけど、それと同じような便利さだよな。


 俺もリンが建造したダンジョンにて、軍用車であるマット君をアイテム回収ボックスとして活用するという芸当を編み出したけどね。

 それ以降はその芸当は使ってねえな~。


「二人が辞退するのならば――」

 ここで真打ち登場とばかりに存在感を放つのは当然――コクリコ。

 それが分かっていたので、それよりも早く俺がコクリコの前に立ち――、


「では有り難く頂戴いたします」


「トールには過ぎた代物です」


「過ぎた代物を武具として既に装備しているのが俺だからな。更に増えても問題ないと判断させてもらう」


「二人には譲ろうとして私には権利を譲らないとはね」


「だって――――ね」


「間がムカつきます!」


「コクリコは既にカトゼンカ殿から頂いている。我慢をしろ。それ以上は強欲だ」

 ベルがちょっと強い声音にて発せば、即座に後方に移動するコクリコの敏捷なこと。

 俺の言うことも素直に聞き入れてほしいもんだな。


「では師匠が鋳塊を貰ってくれるのですね。良かったです」


「あ、はい」

 国宝なんだからもっと上からな言い様でもいいと思うんだけど。

 いくら弟子とはいえ一国の王。しかもエルフという神秘な存在の王からへりくだられると心苦しいってもんだよ。

 二人きりならいいんだけどさ……。

 ――……周囲のお偉いさん方の視線が俺に向けられるのは緊張しかない……。

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