PHASE-1472【喘鳴、動悸】

「そい!」


「なんの!」

 俺の横一文字をロングソードを縦にして防ぎ、手首を捻り、こちらの体勢を崩してくる。

 

 そして――、


「おう!?」

 鋭い前蹴り。

 腰を引いてソレを回避。

 俺と似た戦い方をしてくるな。

 相手の姿勢を崩してからの蹴りとか俺もよくするからな。


「恰好の悪い回避だったな」


「おちょくりたいのは分かるけど、当てられていない時点でそれは負け惜しみだから」


「ぬぅ!」

 デカいグレートヘルムの中でくぐもった声を出すジージー。

 本当の事を言われたからか、反論できないでいた。

 こちらとしては恰好の悪い回避を誤魔化すための反論だったんだけどね。


 というか、


「一騎討ちとなれば実際にそれを実行するんだな」


「何が言いたい?」


「てっきり数の利を活かして、矢や魔法による横槍を入れてくるかと思ってたから」


「そんな下らんことをするものかよ! それにそれをすれば、一騎討ちが反故されたことになるからな。こちらは勇者以外とも戦わなければならなくなる」


「その考えは賢明だね」


「そうだろう」

 グレートヘルムがわずかにベルへと向けられる。

 分かるんだな。増進塔なるもので能力を向上させていても、絶対に勝てない相手がいるということが。


 リンに対して強気でも、ベルは次元が違うと直感で理解しているようだな。


「我がノコノコ達があっという間だな」


「クレイマン程度じゃこっちサイドは誰も止められないよ」


「追加だ!」

 そう言って直ぐさまクレイマンを召喚。

 さっきよりも多い数。四十ほどを召喚してくる。

 増進塔の恩恵があるとはいえ、一人で手勢をこれだけ出せるってのは凄いな。

 リンのスケルトン系には及ばないにしても、こういった事が出来るのは戦力として欲しいね。


「増進塔によるバフなしならどのくらい出せるの?」


「独力ならば二十くらいだ」

 二十でも十分だな。


「どうした、にやけた顔になっているぞ」


「いやいや、そちらと仲良くしたいと思ってね」


「あり得んことを! 同胞の命を奪った者と仲良くとは――貴様の頭はどれだけいかれているのか」


「死線を乗り越えた先の関係ってのもあるからな」


「死ね!」


「それは御免こうむる」

 殺意の籠もった刺突。

 鋭くはあるけど――躱せる。

 最低限の動きで回避してからの、


「イグニースからの――烈火」

 小さな障壁を球状に変えての弱烈火。

 それをフルプレートに守られたボディに叩き込む。


「なんの!」


「なんと!?」

 くの字にしてやるつもりで叩き込んだのに、逆に胸を張って弾き返してきた。

 ダメージを受けていない姿に驚く中で、


「はぁ!」

 そこを隙と判断してからのフルスイングによる横薙ぎ。

 身を低くし、凶暴な風切り音と共に振られる攻撃をやり過ごしたところで今度はこちらがその隙をつく。

 大振りのせいで体を大きく揺らしたところに、


「ちょいさ!」

 足払いをしてやれば、尻餅をつかせることに成功。


「次こそ!」

 身を低くすると同時に再び左拳に烈火を発動。

 未だ臀部を地面につけた姿のジージーのグレートヘルムに向けてアッパーによる烈火を叩き込むことに成功。

 ボンッと爆ぜる音に手応え有りと、打ち込んだ左拳を更に強く握ってのガッツポーズ。


「ぐ……ぉぉぉおぉおぉぉ……」

 苦悶の声を上げるジージー。

 今度のは確実にダメージが入った。

 でもって下方から振り上げた拳と烈火の爆発による衝撃で、ジージーの大きなグレートヘルムが宙を舞い――ガイィィィィィンと豪快な音を立てて地面へと転がる。

 中々の一撃を目にした城壁サイドからは、城門の守護統轄を心配し、動きが止まっていた。


「よしよし」

 増進塔の破壊はまだ出来ていないようだけども、バフのかかった状態であったとしても、十分に対応できるだけの実力差があると判断していい。


「ここで止めて、大人しく門を潜らせてくれるなら回復してやるけど」


「ぬかせ!」

 元気な声が返ってくる。

 声音は強いものだけど、顔にダメージを受けているのは確か。

 手にしたロングソードを地面に置いて、両手で顔を覆う姿からして、かなりのダメージを受けているようだった。


「今のは一番威力の低いヤツだったんだけどな。まだやる気なら次は最高の威力を見舞うことになる」

 脅すように言う。

 これで相手の戦意が挫ければいいんだけども、そんなのがこの門を守護する責任者に選ばれるわけもなく。


「たまたま入った一撃で調子に乗るなよ!」


「んっ!?」


「戦いの最中にこちらを気づかう言葉を投げかけること自体が、こちらを侮辱している! 得物を手から離している相手にトドメをさしにこないのは卑怯だからか? だとすると馬鹿の所行だな。狙える時は狙うものだぞ! 勇者!!」


「お、おお……」

 痛みがやわらいだのか、両手を顔からどかすジージーは、直ぐさまロングソードを手にして立ち上がる。

 それを阻止する事もせず、俺はただただジージー顔をまなこにおさめるだけ。

 何かしら怒気を混ぜて喋々と語っているけども、発言内容はあまり頭には入ってこない。

 それもこれも、ジージーの素顔から視線を外せず、注視することに傾倒しているから……。


 そして……、


「う、おお……おうぅぅぅ……」

 つい先ほどまで脅すような口調で勝ち気だった俺の体は、無意識のうちに後退り。

 言葉をつまらせる中、ヒュウヒュウという喘鳴が自然と漏れてくるし、動悸も乱れ出す……。


 同じ視線になった時から時折、背中に走っていた寒気。

 

 その寒気が今では全身を駆け巡る……。

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