PHASE-253【実情】
出来れば提供された干し草は、自分たちの為に使ってもらいたい。
だって……、
「皆さん随分と衰弱が見て取れますが……」
「そうなんです。早くここから連れ出さないと、死者も出ています」
発するのはコクリコ。
食指を空洞の一カ所に向ければ、そこには瓦礫が盛られて、棒が立っていた。
――……墓だろう。
ここには岩しかない。土があればいいんだろうが、無いから岩を砕いて瓦礫として、それを墓として利用するしか手段がないんだろう。
コクリコの連れ出すという言葉で、ここのコボルト達が敵対者ではないと理解した。
話をと、再び俺たちに座るように勧める族長。
お言葉に甘えて座る。
俺は勇者で、ギルドの会頭。なので、俺が座るまでギムロンを始め起立の状態。
俺が腰を下ろしてから、一人を除き、ようやく皆が座る。
除いたその一人とは、もちろんコクリコだ。
会頭である俺が座る前に、さっさと座るという常識の無さを披露してくれる。
いつだってぶれないこの非常識。
コイツは後で本気で絶望に叩き落とす。
コクリコにとって、今回のクエストにおけるボスポジは俺だからな。
絶対に泣かす!
それは後のお楽しみにとっておいて――――、
「なぜ貴方方は町の人達を襲ったんです? 瘴気が蔓延するまでは一緒に暮らしていたのでしょう」
「そこにおられるお三方にはお話ししましたが、もう一度、話させていただきます」
コクリコ達が俺たちを制したのは、この族長の話をすでに聞いていたからって事ね。
体を左右で支えられた状態で族長は口を開く――――。
コボルト達は亜人でありながらも、リオス前代表の開放的な考えが浸透していた町において、奇異の目で見られることもなく町にて生活を営んでいた。
またコボルトは、元来ひたむきで真面目に仕事を行う種族であり、懸命に働く姿で信頼と敬慕も抱かれていた。
町の人々ともすこぶる良好な関係だったそうだ。
小さな体でありながらも、水中のクランベリーを浮かせて収穫する手際は、人よりも卓抜だったという自負も含まれた内容。
そんな内容を堂々と口に出せる事から、コボルト達とリオス住人達が、如何に親密だったのかが窺い知ることが出来る。
しかし、全てを台無しにしたのが瘴気の存在。
瘴気が町を覆い、虚脱感に襲われた町の人々は徐々に理性が崩壊していき、凶暴化。
亜人であるコボルト達は瘴気の影響を受けることはなく、小さな体で懸命に人々を救おうと行動する。
瘴気の影響は個人差があるようで、発症はバラバラ。
虚脱感に襲われる者もいれば、更に進行して、凶暴な状態に変貌する者も現れた。
そうなると、凶暴化した者たちの標的になるのは弱った人々。
これが原因で、前代表は命を落としたそうだ。
コボルト達は懸命に行動はするものの、人々の制止は困難だった。
凶暴になった人々の力は普段とは比べものにならないくらいに向上しており、体格差に数と、全てにおいて劣っていたコボルト達では、凄惨な現実が拡大していくのをただ見ている事しか出来ない状況だった。
凶暴化は拡大していき、そこから町全体が暴力に侵食されていくのにそこまで時間はかからなかったそうだ。
町全体が脅威となったコボルト達は、受け入れた人々を傷つけることも出来ないことから、全員でこの洞窟まで避難してきた。
この間、外の情報は一切が遮断された状態。
一帯の瘴気が浄化され、リオスの人々の沈静と回復も当然――、知る由もなかった。
未だ人々が危険な存在と認識していた事から、洞窟付近のクランベリー畑を訪れた農夫に対して、出来るだけ怪我をさせないように注意しつつ、投石によって追い返していたとの事。
町で投石をしてきたという報を耳にしたが、これで合点がいった。
「だったらコクリコ達はここに来た時点で、状況は理解できてただろう!」
なぜに町に戻って説明をしなかったのかと、声を荒らげてしまう。
「そうも行かなかったのは分かるでしょう!」
カウンターの荒らげた声が返ってくる。
ああ――――、と、鷹揚に頷いて返し、
「トロールか」
「そうです」
三体のトロールは近辺に潜んでいた魔王軍の残党だったそうだ。
瘴気が晴れたことにより、魔王軍が侵攻を一時停止した事で、残党に対する支援はなく、トロール達はこの洞窟へと逃げてきた。
この時、トロールが配下――というより奴隷として扱っていたのが、リオスよりも遙か南に位置する土地で生活をしていたコボルト達だった。
情報よりコボルトが多い理由にも得心がいった。
リオスに住んでいたコボルト達が不運だったのは、この洞窟でトロール達と出会ったことだった。
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