PHASE-596【こんな使用で英国には悪い気がする】

「流石はシャルナだ」


「貴方もイグニースが使えるでしょ。それと同等の魔法よ」

 一撃を止められている光景に別段、驚くこともなく淡々と俺に語ってくるアルトラリッチ。


「私としてはブラックコフィンでダメージが無い銀髪美人さんの方に驚くんだけどね」

 ライトニングサーペントよりも強力な魔法だったのにと呟くあたり、本当に驚いているんだろうな。

 ――バリバリと鼓膜を破壊してきそうな凶悪な音を立てるライトニングサーペント。

 それを風の結界が防ぐ光景は次元の違うもの。

 強大な魔法と魔法のぶつかり合いは、両術者のレベルの高さが窺える。


 ――――程なくしてライトニングサーペントが消え去る。

 なんとかシャルナが防ぎきった。

 ここだけ見ればシャルナの勝ちって思えるけど……。


「はぁ、はぁ……」

 肩で息をして片膝をつく姿と、悠然と柱の窪みに鎮座する姿を目にすれば、どちらの方が術者として上なのかは一目瞭然。


「よく防いだわね。ありがとう。この力の間の床が抉れたらどうしようかと思ったわよ」

 クスリと強者の笑みは崩さない。

 仲間が敗れたみたいで悔しいけど、明らかにシャルナより格上だ。

 こんなのがいるんだな……。


「じゃあもう一度。今度は確実に当ててあげる」

 立て続けのライトニングサーペントなる強力な魔法。

 向けられるのは――、


「コクリコぼけっとするな!」

 二人のやり取りに完全に呑まれている。


「バイバ~イ」

 陽気なオムニガルの言葉に合わせるように、アルトラリッチの手からは、再び巨大な光の帯が放たれる。

 シャルナではもう防げない。

 俺は射線上にはいない。

 ベルだってそうだ。

 ゲッコーさんは防御系の物を所持してはいない。

 当たれば間違いなくコクリコには死が待っている。


 ――――!


 この間の思考は長く感じるけども、実際は刹那。


「こいつでどうだ」

 プレイギアを取り出し、コクリコの前に向けて、


「チャーチル歩兵戦車」

 と、ワールド・バトルタンクのストレージデータより召喚。

 ゲーム内でも鈍重さからほとんど使うことはなかったけども。

 光の中から完全に姿を現す前に、バリバリとけたたましい電撃音が直撃。

 輝きの終息と共に立ち上がるのは白煙。

 その後ろでは無事に立っているコクリコ。

 光の後の白煙で姿を見せるのに時間がかかったが、煙が晴れると――、


「なにあの鉄の箱は!?」

 アンデッドとなって長い時を過ごしただろうが、お前より長い時を過ごしたシャルナだって見たことはないからな。もっと驚いてくれてもいいんだぞ。


「良いチョイスだな」


「でしょ」

 鈍重でも装甲は優秀。悪路で真価を発揮するのがチャーチルらしいけど、それでも俺は使わなかったな。

 この世界では盾として使えば最高だな。

 しかもゲッコーさんの世界から引っ張ってきてないからね。オートセーブ機能じゃないからもし今ので壊れたとしても問題なし。

 上書きさえしなければ、新品として再召喚可能なのがいい。


「まさかこんな芸当が出来るなんてね。不思議な武器を使ったりする仲間

もいるし。興味深いわ」


「そうですかい」

 すげなく返しつつコクリコと合流する為に、グレータースケルトンを倒しつつ接近。

 シャルナは動きが鈍くなっているぶん、攻められるとやっかいだが、ゲッコーさんが後衛二人のカバーに入ってくれている。

 前衛のグレーターはベルが余裕で対応。


「よいしょ」

 コクリコまであと数歩ってところにいるグレーターをイグニースによるシールドバッシュではじき飛ばす。

 インスタントでも部位破壊が可能な威力である弱烈火に比べれば力不足だけど、面積のでかい炎の盾での吹っ飛ばしもいいもんだ。


「どうした? 自分を超えるのは自分だけなんだろう」


「……そうなんですけどね……。あんなのを見せられたら……」


「落ち込むにしても戦いが終わってからだぞ。いずれは使えるようになるって」

 こんな時にへこんで動きが鈍くなることこそよくないからな。

 やっぱりオムニガルに言われた事が尾を引いているようだな。その当人も目の前にいるしな。だからこそ余計に鬱屈した気持ちになるんだろう。

 メンタルコントロールなんて簡単に出来れば苦労はしない。

 出来るってヤツは真の強者か、頭がお花畑のヤツだけだ。俺たち普通人には難しいんだよな。

 まあ、飛びかかっていかないだけコクリコの精神はまだしっかりしている方だと、しっかりとフォローを入れておく。

 パーティーのリーダーとして。

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