PHASE-862【折檻】
俺に不快感を持った二つの頭の口が大きく開けば、炎が吐き出される。
「俺には効果はないぞ。初手で理解しろ駄犬」
余裕のガード。
と、次には衝撃。
ゴロゴロと地面を転がされる。
「いってぇぇぇ……」
油断した……。
炎のダメージは無いけども、炎でこちらの視界を狭めたところで長い尻尾による一撃を見舞われた。
駄犬とか言ってこれだと格好悪すぎだな。
とくに強者的な発言で言ったもんだから、凄く恥ずかしいぞ……。
「ハハハハッ! どうした勇者、先ほどまでの軽口は。軽口のように体も軽いようだな」
うるさい奴だ。
まあ実際、これは完全に油断してたよ。
後で反省会でもあろうものなら間違いなくベルに怒られる案件だ。
「焼き払え!」
「だから効かないっての」
「この俺にあだ為す全ての者達を――だ!」
――阿呆が!
「全員防御だ!」
双頭の首が大きく動き回る。
帯のような炎から、球体の炎へと変えてコロッセオの観客席に向かって無差別に放っていく。
帯状と違い、火球は連続での吐き出しが可能のようだ。
「ハハハハッ! いいぞもっとやれオルトロス! 流石は我が最高傑作。さあ、俺に死しても挑もうとする不忠者も消し去ってやれ!」
「それは不可能というものでしょう」
ミランドは一直線に駆ける。馬鹿へと目がけて。
「死しても生意気な奴だ! やれ!」
「やらせねえよ!」
「分かっているぞエセ。我が最高傑作に隙はない」
双頭の片方が俺の相手。
口部が赤々と輝き火球が放たれる。
対してこっちは視界を遮られてもちゃんと物理防御も出来るようにイグニースを顕現させてから、
「マスリリース!」
剣身に纏わせた斬撃を俺ではなくミランドを捕捉しているほうに目がけて放つ。
三日月状の黄色い斬撃が首元に当たれば、
「ギャウ!?」
痛みの鳴き声を発し、ミランドへの攻撃が中断。
しっかりとダメージは与えたけども、首元に向けた一撃で断ち切る事は出来なかった。
わずかに体毛に鮮血が浮き上がる程度のダメージだ。
石材の壁にしっかりと切り込みを入れることが出来る一撃だったが、オルトロスモドキの体は石材より頑丈なようだ。
まあいい。動きを止めることが重要だからな。
「感謝します」
「おうよ! やっちまえ!」
「お任せを」
オルトロスモドキからの驚異がなくなったミランドは、そのまま馬鹿息子に向かって拳打の構え。
「折檻です。カリオネル様」
「ああ……来るな!」
手にする緋緋色金の剣も持ち主がど三一ならど三一になるというもの。
剣を振り上げたと同時に、ミランドが振り抜くガントレットを纏った拳が顔面にめり込む。
「ぎゅぅぅぅぅ……」
容易く吹き飛ぶ馬鹿息子。
しかし馬鹿息子が倒れたところで、
「ギャウゥゥゥゥゥ!」
「コイツは止まんねえな」
ダメージを負わせた方の頭なんて特にお怒り。双頭は俺だけを捕捉し、周囲には目もくれない。
というか――、
「皆、無事か」
観客席を見やれば、
「「「「おお!」」」」
快活のよい返事が全方位から聞こえてくる。
ヒュドラー戦の毒対策同様にしっかりと障壁によって守られている。
有能なプロテクション持ちが増えたのは本当にありがたい。今後の戦いでも大いに頼りになるというものだ。
「俺なんてぶった斬ってやりましたよ」
得意げに言うのはカイル。
自身の前には障壁がなかったからと、盾にもなりそうな刃幅の広い段平で防ぐのではなく斬ったそうだ。
火龍装備製作の最中で出た鱗の粉末がコーティングされているから、並の炎による攻撃は意味を成さない。
「よし相手が攻撃してきたんだ! 俺たちも行くぞ」
「待て!」
強気になっているカイルの発言に呼応しようとした面々を御するのは、ベルでもゲッコーさんでもなく――it'sme俺。
「集団リンチなんて俺の好みじゃないし、これは俺とミランドの戦いだ。歓声だけで十分だよ」
「分かりました。出しゃばってすみませんでした」
カイルの快活な返事にこれまた呼応するように、皆して観客席から乗り越えようとしていた動作を中断。
こんな俺を信頼してくれる皆に感謝だ。
緋緋色金を目にしたギムロンだけはしっかりと押さえてないと駄目なようだが……。
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