PHASE-416【電撃バリバリー】

 術者がたじろげば、使役される狼男を象った影や、兵士たちも動きが鈍くなるようで、ヴァンパイアに合わせるように背を反らしている。


「間隙だ」

 この隙を一気に突くと、ゲッコーさん。

 麻酔銃が兵士たちに立て続けに見舞われれば、シャルナも容赦なくアッパーテンペストを唱えていく。

 容赦のない突き上げてくる風に、鎧を装着した騎士達が軽々と浮き上がり、絢爛な天井に叩き付けられていく。

 風の範囲外の兵士も、突風で自由を奪われている。

 本当に男には容赦がない。

 

 シャルナの魔法で自由を奪われた兵士には、コクリコが掌底、蹴り、投げを見舞っていきダウンさせる。

 

 狼男みたいな影をファイヤーボールで倒せなくても、素手で兵達をダウンさせる事は容易く出来るウィザード。

 ――……マジでウィザードってなに?


「素晴らしい。美しく強い。よき従者をお持ちだ。どうしても得たい」

 コクリコには目を向けることはなく、シャルナにだけ向けての称賛。


「だからそれを言うと、怒りを買うという学習はないのかよ」

 ベルにおののいていたわりに、先ほどと同様の軽口を叩けるだけの余裕はあるようだ。

 まだまだ本気ではないということか。

 このヴァンパイアにとっては、まだ前座なのだろう。

 ならば本気を出す前に仕留めるのが一番だ。


「ラピッド」

 ここで更にピリアによる強化を行い、瞬間移動をイメージし、一足飛びでヴァンパイアの喉元まで到達してやるという気概で回廊を駆ける。


 鏡の回廊が流れるような光景となり、体を強めに撫でていく風。

 しっかりと残火の柄を両手で握り――――、


「ああ、そうそう。そちらの髭の男性が発言した通り、私は侯爵の体を乗っ取っているだけで、この者は死んではいないのであしからず」


「くそ!」

 不敵な笑みと余裕の理由。

 ブラフと思いつつも、俺は構えのままヴァンパイアを通過。

 立ち上がるまでに回復しているメイド長のコトネさんへと目を向ければ、コクリと頷きが返ってきた。

 この頷きが、ヴァンパイアの発言が真実なのを物語っている。


「さてどうします」

 俺が構えを解いたもんだから、攻撃できないと判断したようで、嘲笑を向けてくるヴァンパイア。

 乗っ取られているなら、斬ってしまえば侯爵を殺めることになる。

 この地の領主を殺める……。これはよくない。

 

 ――……体を奪われている侯爵に、操られている兵士。人質を取られた状況で戦っているようなもんだ。

 しかもその人質がこちらに攻撃を加えてくるんだからな。たまったもんじゃない……。


「行くがいい!」

 調子に乗っているのが分かるくらいに高揚に満ちている声。

 ヴァンパイアのテンションに左右されるように、影の狼男や操られた兵士たちの動きが活発になる。

 数の暴力とばかりに、折り重なるようにしながら襲いかかってくる。


「ちょっと、流石にこの数をさばくのは難しいよ」

 シャルナが魔法発動の動作を止めて、距離を取るようにバックステップで移動。

 狼男だけなら攻撃魔法を広範囲で唱えれば一網打尽なんだろうが、操られている兵士もいるとなるとそうはいかない。

 操られていても敵である以上は命を奪うのも仕方がないこと。しかし、現状ではそれを避けている。

 戦いの非情さを理解していても、人としての理性が決断を鈍らせる。

 俺もだろうし、皆もそうであるはずだ。

 

 広範囲のソフトキルってなんかないの――――って、有るじゃん!


「コクリコ!」


「なんです急に大声を」


「こういう時こそ使えよ!」

 ランページボールなんて馬鹿みたいな魔法を使うくせに、この場で一番に使用してもらいたいのは使わない。


「アークディフュージョンだ」

 真っ先に理解してくれたベルが、俺に代わってコクリコへと述べる。

 なるほど。と、得心がいく表情に変わる。

 なぜ今までその発想に行き着かなかったのか? ウィザードなのに。

 接近戦で勝ちまくって有頂天になっていたからってのが答えなんだろうけども。使ってくれるなら何でもいい。

 ポージングを決めるコクリコが手にするワンド。その先端の貴石が黄色に輝く。


「アークディフュージョン!」

 迸る電撃が先頭の兵士に当たれば、電撃は次々と伝播していく。

 敵味方識別なんてないので、俺たちも距離をとれば、メイドさん達も素早く距離をとる。

 バリバリと広範囲で迸る電撃は、海賊達に使った時よりも広範囲。

 断続的に強い光を発し、程なくして――――終息。


「やったぜ!」

 決めポーズで愉悦に浸っているコクリコから離れた位置で、俺は嬉々と叫ぶ。

 見事に兵士たちだけが床に倒れ込んだ。


「このような低級魔法で……」


「使いようって事だよ」

 ドヤ顔でヴァンパイアに言ってやった。


「なんでトールが得意げなんですか!」

 ポージングをやめたコクリコが、手柄を奪うなと俺に息巻いてくる。

 普段のお前の姿が、正にコレなんだがな。


「まだ油断はするな」

 俺へと接近するコクリコをベルが一言で制止させる。

 戦いはまだ終わっていないからな。

 兵達は床に倒れ込んだが、狼男を象った影は健在。

 動きは止まっていたが、再び駆け出す。ノーダメージだ。


「所詮は人間か。この程度の電撃で倒れるとは」

 情けないとばかりにヴァンパイアは肩を竦める。


「おっと、その人間を乗っ取っているお前が偉そうに言うなよ」


「では、どうやって私をここから追い払うつもりかな?」


「むぅ……」

 体から追い払ったり、封じたり出来る聖なる鏡的なアイテムとかないのかな。

 

 こっちがどうやって対応すればいいのかを考えている最中にも、ヴァンパイアが俺へと手を向ける。

 掌の前方では小石サイズの火の玉が顕現。

 火の玉の周囲を渦巻くように炎が荒ぶると、中心の火の玉へと集約されていき、肥大化していく。

 放たれそうになるその瞬間――、


「ちぃ!?」

 白銀の一閃が走れば、ヴァンパイアは魔法を中断し、懸命に仰け反る。

 勢いを抑えることが出来なかったようで、無様に尻餅をついていた。


 中断させられた魔法がボンッと大きな音と共に破裂すれば、衝撃で回廊の窓ガラスと鏡の一部が派手に砕ける。

 不完全でこの威力。完成形だとかなりの威力だったかもな。

 

 でもさ…………。


「ベル……」

 乗っ取られているというのが分かっていても、容赦のない攻撃を実行できるのは、流石は軍人といったところか。

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