PHASE-1447【主に和菓子で使用】

「ギムロンの助言はちゃんと聞き入れような」


「了解だよ」

 と、返しつつ、サーベルを収めた鞘をベルトに差すミルモン。


「まあサーベルを渡す時、一緒にコイツを渡さなかったワシも悪かった」

 と、ギムロン。茶色からなる紙を取り出せば、それを小さな正方形に切り分けていく。

 切ったソレを束にして、


「ほれ」

 その束を包んだ小さな革袋を俺へと手渡し、


「勲功爵殿。サーベルを使用した後はコレを使うようにしとけ」


「ああ、油塗紙ってやつね」


「会頭の装備だと不要なものだから新鮮だろう」


「確かに。ミルモン、戦闘が済んだらこれで丁寧に拭こうな」


「分かったよ。天空要塞で完全勝利した後に使わせてもらうよ」

 コクリコ同様、戦う気満々だな。

 俺も装備は大事にと心がけたばかりなので、俺用にも欲しいと言えば、ギムロンから油塗紙を手渡される。

 手渡した手を引っ込めず、掌は俺に見せたまま。

 ――……これは有料だった……。


「ピカピカに磨き上げてやるからな。オイラのサーベル――ええっと――」


「どうしたよ?」


「特別にしたいからね。兄ちゃんみたいに名前をつけようかな」


「いいんじゃないか」

 名前をつけると愛着も湧くからな。

 そうなれば丁寧に扱うことにも繋がるしな。


「う~ん……」

 腕組みして考え中。


「グランディス――違うな~。インペリアル――でもないな」

 おうおう。なんか雄大な名前にしようとしていらっしゃる。


「兄ちゃん。なんか良い名前ないかな?」

 ここで俺に聞いてきますか。

 そうだな――。


「――爪楊枝なんてどうだ?」

 長さから連想したモノを口に出す。


「そんなの格好悪いよ」

 当然ながら即却下。

 せっかくの自分の得物が、食後にシーシーッとするような道具と同じなんて御免こうむるとミルモン。

 俺の言うことは基本、同意するけども嫌なものは嫌だと言える子。

 自分で言っておいてなんだけど、間違いなく却下されるのは分かっていた。

 

 でもな~、


「一周回って粋な名前に感じない?」


「え~。兄ちゃんもしかして本気でお勧めしてる?」


「いいんじゃないかの~」


「作り手まで言い出してるよ。兄ちゃんと違ってなんかムカつくけど!」

 俺はミルモンが言うように本気なんだけど、ギムロンはヒゲに覆われた口端を上げての悪そうな表情で提案にのかってるからな。

 悪ノリにしか見えないよな。


「確かに見た目は爪楊枝サイズだけども、もっとなんかあるでしょ」


「例えば?」

 今度はミルモンの意見を聞きたいと伝えれば、


「ブルーフェイントゥリィシャイン――ええっと」


「あ、もういいよ」

 中二心もくすぐらないダサダサネームである。

 ミスリルコーティングだから青く淡い輝きってことなんだろうけども――長い。

 その名を相対する脅威の前で口にすれば、間違いなく嘲笑を浮かべてこちらを見てくるだろうね。


「シンプルなのがいいと思うぞ」


「オイラとしては、さっきの名前は凄くシンプルだと思うんだけど」

 シンプルじゃない候補ってどれほど長いネーミングだったのだろうか……。

 詠唱魔法を思わせるような長いのは覚えきれないので御免こうむる。


「もっとシンプルなのがいいと思うけどな」


「だからって爪楊枝はないよ。格好悪い」


「格好悪いのが実はとんでもない切れ味でしたってギャップがいいんじゃないか。アレだよアレ。バトルもの漫画で敵サイドにいる、強者に小突かれ馬鹿にされてもヘラヘラ笑う腰巾着タイプが、実はその強者より圧倒的に強いっていうギャップ」


「例えはよく分からないけど、ギャップと言われれば――確かにってなる」


「いいじゃろう爪楊枝でよ~」


「このドワーフが言うと反対したくなるんだよね!」

 意地悪そうに笑いながら言うからな。


「だから格好いいのを兄ちゃんにお願いするよ」

 完全に丸投げしてきたな。

 爪楊枝でいいと思うんだけどな~。

 ふむん――。

 ――うむ。


「黒文字ってのはどうだろうか?」


「クロ――モジ?」


「そうクロモジ」


「なんだいそれ? オイラの服装には合いそうな名前みたいだけど」

 言いつつ自分のタキシードを見回すミルモン。


「で、どんな意味?」

 継いで問うので、


「和菓子なんかに使用される高級楊枝の材料になる木だな」


「また爪楊枝! どれだけ爪楊枝から離れないのさ!」


「ファハハハハハ――――ッ」


「笑うなドワーフ!」

 俺のアイディアがとてもウケたようで、ギムロンは樽型ボディで床を転がりながら大笑い。

 ギムロンのその行為に、赤い髪に負けないくらいに顔を真っ赤にするミルモンは、


「その見事な転がりよう! 本物の樽と間違えられて出荷されればいいよ!」

 と、エンレージMAX。

 お得意の黒い電撃を右手に纏わせ放とうとしていた。


「ま、待て待て勲功爵……殿。か、格好いいじゃねえか。クゥ……ク、クロモジ……」

 笑いすぎて喘鳴となるギムロンだったが、クロモジという名前自体は気に入ったご様子。


「短くて覚えやすい。勲功爵殿も会頭も纏う服装、装備は黒色がメインだからの。似合いの名前じゃろ」


「うぬぅぅぅ」

 的を射ていたようで、右手に纏わせたくろいバリバリを解除。

 すかさず、


「その技も黒しな。いいじゃねえかクロモジで」

 ダメ押しとばかりにギムロンが自慢のヒゲをしごきつつ言う。

 今回は悪そうな笑みは見せず、真面目な表情。


「言い得て妙だね」

 得心がいったとばかりにミルモンは首肯で返す。


「じゃあ主である兄ちゃんと、このサーベルの作り手である灰色ヒゲがお勧めするクロモジをオイラの愛刀の名前にするよ」


「使っていくうちに名前にも愛着が湧いてくるってもんだからの」


「だね。このクロモジを振って突いて、歴史に名を残す伝説の刀剣にしてみせるさ!」

 コクリコみたいな事を言うね。


「期待してるぞ。ミルモン」


「任せてよ♪」

 俺が期待をすればするほど、ミルモンのテンションが上がる姿は本当に可愛い。

 これから先の戦いを制していけば、歴史に残るだけの偉業なのは間違いないからな。

 コクリコは捏造自伝で話を盛るに盛るだろうけど、ミルモンは偽りない偉業で後世に名を残してほしいところ。

  

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