PHASE-526【蹂躙ですよ】

「くそ! 大人しく囚われていればいいものを!」

 リズベッドの完璧な防御に、悔しそうにオーガはメイスで床を叩く。

 床の破片が飛び散り、近くにいる護衛軍は甚だ迷惑そうだった。

 さっきと違って盾を前面に並べた密集隊形になっているからか、破片が当たりやすいようだ。 


「お前達に彼女の自由を奪う権利はない」


「なに!?」

 縮地が使用出来るレッドキャップスですら驚きに顔を歪めてしまうベルの歩法。

 最前列にいたのがオーガの失態。

 涼やかな声とは対照的な、紅蓮を纏ったレイピアを斬り上げれば、自慢の高速治癒能力を発揮することも出来ないままに、五メートルほどある巨躯のオーガは、その姿を灰燼へと変えた。

 メイスが床にだけ残る。

 これで周囲の護衛軍は、苛立ちで生まれる破片には困らないだろうけど、それ以上に眼前の出来事に戦慄を覚えたようだな。


「なんだ今のは!?」

 要塞に待機していた者達は、ベルの攻撃を目にしているわけじゃないし、ゲッコーさんの攻撃だって理解できない。

 加えて自分たちの数に物を言わせた攻撃すらリズベッドの前には無価値。


「こりゃ凄いや」

 数の多さに最初は圧倒されたけども、よくよく考えると、攻撃力がカンストした存在が攻撃を行い、防御面もチートクラスの魔王がいる。

 こちらに危険というものは訪れそうもない。

 

 その証拠に――、


「ハハハハッ! どうしました。最初の勢いが随分と削がれたようですね! ライトニングスネーク!」

 コクリコの強気な行動が全てを物語っている。

 それそれそれ! と、続けざまに雷撃の蛇を敵に見舞っていき、相手が障壁で正面を守ろうと傾倒すれば、後方に入り込んでいるベルが単身で斬獲していく。

 ゲッコーさんが開けた穴がベルによって大穴になり、そこにゲッコーさんの散弾、コクリコとシャルナの魔法が猛威を振るう。


「調子に乗るなよ!」

 縮地にてリズベッドにまで詰め寄ってきたレッドキャプスのオーク。

 手にしたバトルアックスを振り上げるも、


「させんよ」

 地龍が首を強く振れば、枝分かれした角がオークを切り裂き、壁へと叩き付けた。

 首の一振りで絶命だ。

 乗ってる俺には揺れが伝わることはなかった。

 獣みたいにただ力任せに振ったのではなく、技ありの攻撃だってのが分かるものだった。


「こちらは圧倒的だが、いかんせん――」


「広範囲系がないからな」

 俺がくい気味に地龍に返す。

 面制圧を可能とするゲッコーさんの一撃も、十重二十重とえはたえな陣形を組んでいる相手の陣形の奥深くを狙うのは難しい。

 コクリコやシャルナの魔法もそうだ。

 ベルは現状、ただの一振りが大魔法クラスである炎の津波を出せないし、俺はというと……、この体たらく。スプリームフォールを唱えれば解決なんだけどな。

 リズベッドがいるから俺の魔法を使用しても、俺たちに被害は出ないだろう。


 現状は、限定的であって、広範囲じゃない。

 圧倒的でもTTKタイム・トゥ・キルは遅い。

 遅くなれば、相手が立て直す時間に繋がる。


「よし、では私も参加しよう」

 なんと頼りになる発言。

 全体攻撃が限られる俺たちだが、こっちには四大聖龍リゾーマタドラゴンである地龍パルメニデスがいるんだよね。


「では――」

 鋭利な爪からなる左前足をノックするように床に触れさせれば――、ドドドドドドッと、地を揺らしながら床から槍衾が生えてくる。


「「「「ぎゃぁぁっぁぁぁああ」」」」

 串刺しに襲われる護衛軍。

 デスベアラーとの戦闘の爪痕は未だに残っており、水たまりの部分も残っていて、その中に鮮血が混じっていく。

 容赦のない全体攻撃が立て続けに行われ、


「戦力を増やそう」

 何をするかは理解できた。

 俺たちと戦った時と同様に、床を角で擦れば、床が隆起し、八体のゴーレムが出現。

 支配されていた時の倍の数が現れる。

 ゴーレムの大きさも違った。

 俺たちと対峙した時は三メートルクラスだったけど、今回の八体は五メートルクラスだ。


「行くがいい」

 地龍の言に従い、ゴーレム達が暴れ回る。

 トロールとの巨体同士の戦いも始まるけども、地龍が作り出したゴーレムは強かった。

 重々しい動きの中に素速いフットワークも有り、岩で出来た拳がトロールの頭部を殴れば容易く潰れ、脳漿なんかを一帯にまき散らす……。

 無論、再生することはない。

 

 地龍の広範囲を攻撃する槍衾。八体のゴーレムが暴れ回ることで、敵の陣形は脆くも崩れ去る。

 密集している状況下での混乱は地獄絵図だ。

 お互いがぶつかり合い、倒れた者は味方に踏まれていく。

 それが原因での圧死も多数出ていることだろう……。

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