PHASE-657【命大事に】

「それ便利ね」

 ディザスターナイトの存在に驚愕のコクリコとは反面、リンは驚きもせずにプレイギアの能力に興味津々。

 ディスプレイを覗き込もうと俺へと急接近のリンの顔をグイッと押しやって、コクリコが俺に接近。

 美女と美少女の接近に早鐘を打ちそうになるけども、それ以上に琥珀の瞳には危機感があったのを感じ取る。


「やばいの――か?」


「ええ。とってもヤバイ相手です」


「本当にヤバイのか?」

 確認のためにリンにも問うてみると、


「ヤヴァイ」

 言い方がイラッとした。

 といってもレベルは64だ。

 これ以上のレベルの敵とも相対してきたから戦える自信がある。

 でも、現在の俺は弱体化した状態。


 短く刃幅の広いファルシオンの一撃に、タワーシールドによるスパイク攻撃を受けて耐えきるのには自信がない。

 イグニースが欲しいところ……。


「トール。とりあえず命は大事にしましょう」


「当たり前だろ」


「ええ、当たり前ですけど。目の前の存在がトールの情報通り、ディザスターナイトなら事です」

 厄災、災害の名を冠するアンデッドの騎士。

 固有能力として【インフェクション】なる力を有しているという。

 インフェクション――得手にも表記されている感染って事なんだけども、コクリコから語られる固有能力の内容はおっかないものだった。

 ディザスターナイトに命を奪われたが最後。

 殺された存在は、ディザスターナイトの眷属である、ゾンビ兵になってしまうという。

 ゾンビ兵は普通のゾンビとは違って、一般の兵士が数人で対応しないと押さえ込めないレベルらしい。

 次々と増えていく眷属と共に、厄災の名に恥じない存在が暴れれば、一夜にして大きな町が死者の町に変わり果ててしまうという伝説も残っているそうだ。


「レベルはともかくとして、伝説上の存在ってわけだな」

 そんなのがなんでこんな所にいるのか。

 ミストドラゴンが護衛として要しているのか? でもアンデッドだからな。

 ――チラッとリンを見れば、不思議と俺から視線を逸らすよ……。

 うん……。なんかこのダンジョンの成り立ちが分かった気がした。

 とにかくここを攻略できれば後、二階だけ。


「やるしかないんだよな」


「スルー出来るとは思えませんからね」

 有りがたいことに相手は動かない。

 一定の間合いまで詰めれば動き出すのか、それとも先攻を許すタイプなのか。

 どのみちこっちが先に動く事が出来る。

 

 俺が背嚢を床に置き、中から侯爵から貰ったファイアフライが入ったタリスマンをコクリコに四つ手渡す。

 手にしたタリスマンをコクリコが魔力で刺激すれば白光に輝く。

 更にそれを一つ一つ俺に手渡してくれるので、玄室の四隅に投擲。

 玄室全体をしっかりと照らしくれる。

 これでコクリコもディザスターナイトの姿をはっきりと目にすることが出来るようになったし、俺もビジョンを解除することが出来る。

 未だ動きなし。

 やはり外部からの刺激によって動く、受け身タイプのようだ。


「よしいこうか」

 腰を落としたところで。


「戦いは先手必勝」

 言えば、続ける言葉はライトニングスネーク。

 急襲はコクリコの専売特許。

 弱点は炎だが、コクリコは自身の最強格を選択。

 炎は俺が肩代わりしよう。

 コクリコにわずかに遅れ、雑嚢に手を突っ込んで取り出すのは――、モロトフカクテル。

 注ぎ口に詰めた羊皮紙の切れ端に、手にした松明を利用して着火。

 からの――、


「おらっ!」

 ストレンクスンとインクリーズの筋力強化による投擲。

 回転する火が直線を描いて飛んでいく。

 先手のライトニングスネークに対して今まで鎮座していたディザスターナイトがアクションを起こす。

 タワーシールドにて電撃の蛇を防ぐ。

 が、次のモロトフが盾で割れれば、飛び散る液体が瞬時に引火し、盾だけでなく体にも飛び散る。


「ヴォアァァァァァァァァァァ」


「おお!?」

 クライゾンビ以上の咆哮が鼓膜に響いてくる。

 体の炎を懸命に振り払いながら消火。

 弱点とはいえ、今の一撃で片膝をつくって事には当然ならない。

 そして攻撃を受けたという判断から、臨戦態勢となったようで、伏せていたディザスターナイトの面頬のない兜がしっかりと俺たちの方を向く。

 ぽっかりと空いた眼窩に緑光が宿り、頭部をやおら左右に動かして仕掛けた俺たち二人へと視線を合わせると、次の行動に移る。


 手にするファルシオンを下段で構え、タワーシールドを前面に押し出して猛然と突っ込んでくる。

 外見通り、前衛職の攻め方。

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