PHASE-1544【解放】

「クロウス氏たちの評価を下げたくないから自分たちで探すかね~」


「そうでなくては我らが主もお認めにならないでしょう」

 お認めに――ね。

 どのみち一本道なのは変わらない。

 ミルモンもいる。

 迷うことはもうない。


「辿り着ければ認めてもらえるということでいいでしょうか? クロウス氏」


「それは会ってからということで」

 じゃあ意地でも会いましょう。 


 さてさて会うとしても――、


「どこを探すべきかね~」


「見当はついているぞ」


「本当ですかゲッコーさん」


「合流時、新たな発見はあったかと聞いてきたよな。俺はどう返した」


「――ああ、ばっちりだ。ですね」


「そうだ。まだ憶測の域を出ないが――この要塞の主がいるのは――」

 ここでゲッコーさん、自分の足元に目を向ける。


「地下ですか?」

 空飛ぶ要塞で地下って言い方が正しいかは分からんが、


「ああ、下へと続く扉をこの区画で見つけたからな」


「地下だそうですよ」

 満面の笑みを顔に貼り付けてクロウス氏へと向けてやる。

 どういった表情の崩れを見せてくれるかと思ったが、そこは大立者。見事なポーカーフェイス。


「問いかけに対して焦りもしなければ作り笑いもしないで無表情。この場面での無表情ってのはいただけない。悟らせまいと顔に出さなければ、逆にそれが真実である判断材料となってしまうぞ――大立者」


「思っていただくのは自由です。ゲッコー殿の経験則からの推測でしょうが、その推測が完璧だと信じているとなれば、貴男様ほどの実力者としては些か浅慮であると申し上げたい。もしくは敗北を久しく忘れたことで増長しているのでは? 慢心は最強に限りが見えてきた証拠ではないでしょうか」


「言うね~。本当に言うもんだ。言い過ぎて今までで一番の喋々とした語りになっている」

 多くを語ればそれは真実を隠したい証拠だろうと追撃のゲッコーさん。

 ならばとクロウス氏は最低限の返事だけになってしまう。

 そうか、下か。

 まさかの丼状の底部の方にいるなんてな。

 空中要塞の豪壮さに目を向けてしまうが、その反対側の丼のような半円の方にいるのか。

 掴み所のない人物だということだからな。

 俺達の思考の反対側をついてくるようだね。


「じゃあ、地下へと続く道への先導をお願いしますゲッコーさん」


「任せておけ」

 俺について来いとばかりに先頭を歩いてくれる。

 クロウス氏たちを見れば、足を動かそうとはしない。

 ここでお別れだな。

 こちらの進行を妨害するといったこともしてこない。


「背後から狙ってこないのですか?」

 別に狙っても良いのですよ。と、コクリコ。

 挑発に乗るかと思ったけども、クロウス氏を先頭にして誰もアクションを起こさない。


「我々は敗北した身。恥の上塗りは出来ません。勇者殿御一行の今後は他の者達の報告で耳に致しましょう」


「そうですか。では、我々が貴方方の主に力を示したという報告を耳にすることになる――とだけ予言しておきましょう!」


「的中させるには苦労しますよ。コクリコ女史」


「苦労するからこそ報われた時の喜びも大きいというものです」


「素晴らしい」

 拍手による称賛のクロウス氏。


「ポームス」


「なんだい?」


「貴男は勇者殿たちと行動しなさい」


「えぇ……」


「そういう流れですからね」

 ――流れ?


「分かったよ……」

 やれやれと肩を竦める中、


「歓迎しよう!」

 ベルは参加を大歓迎。

 片方は歓迎の熱量に恐がり、片方は喜ぶといった構図。


「なにをビクビクしてるんだか。チビだからって心まで小心のようだね」


「はぁっ! なんだこのチビ。いい加減にしとかないとボコボコにするよ!」


「ハハッ! 兄ちゃん聞いたかい。自力で飛行も出来ないようなヤツがオイラをボコボコにするとか無理無駄無謀な事を言ってるよ。一緒に笑ってやろうよ」


「まあまあ」

 二人の間に入ってなだめる俺氏。

 間違いなくミルモンのライバルになるようだな。ポームス。

 二人が睨み合う事でハラハラするのはベル。


 ちびっ子二人を心配そうに見るベルから視線を移し、


「ラズヴァート」


「あん? んだよコラッ!」


「ああ汚い。なんて言葉づかいだ」


「ケンカ売ってんのか!」


「売ってないよ。なんで倒した相手にわざわざ売らないといけないのか」


「それが売ってるってんだよ!」


「はいはい。そんな事はどうでもいいんだよ」


「よくねえよ!」

 詰め寄るところでロマンドさんがグッとマッドバインドを引っ張れば舌打ち。


「ロマンドさん」


「なにかな?」


「解放してあげてください」


「お! 再戦を挑む気か!」


「負けた側が挑む気か! じゃないだろう。逆に挑んでこいよ。まあ、今回はもういいけど。自由にしてやるよ」


「人質を取らないと戦うことも出来ない勇者様の発言とは思えないな」

 イラッとさせられるが勝者として余裕は見せておかないとな。


「全てが終わったら再戦を受けてやる」


「全てが終わったなら、お前等はこの世にいないだろうよ」

 ――ふふん――本当にムカつく男前だな。


「二度と俺に生意気な口がきけないようにボッコボコにしてやるから覚悟だけはしとけ。アドゥサル戦後にレインメーカーだけでなくバーニングハンマーもぶちかますと言ったけど、更にツイスト・オブ・フェイトも追加だ。顔面を思いっきり床にたたき付けてやるからな! 男前を台無しにしてやる!」

 まったく。少しは感謝してほしいね。

 感謝の気持ちも持てないようなヤツだからボッチなんだろうけど。


「どうでもいいからよ。今すぐここでやろうデェ!?」


「いい加減にしなさい見苦しい」

 鈍い音が響き、ラズヴァートを黙らせる。

 クロウス氏の拳骨一発による折檻。

 ラズヴァートは悶絶しながら床を転がる。


「勇者殿の慈悲に悪態をつけばつくほど、敗者としての無様な姿が濃くなるだけです」


「ふぁ、ふぁい……。すみません……」

 両目に涙を浮かべながらの反省。


「人質の解放、感謝いたします」

 ラズヴァートの代わりとばかりにクロウス氏とアル氏。そしてグラスバール氏のスーツ組が礼を述べてくれる。


 大立者と幹部による謝意となれば、流石のラズヴァートも悪態をつくことをやめ、渋々だったが俺たちに頭を下げてくる。

 尊敬する者達に対しては本当に素直だな。

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