PHASE-380【先に食ってんじゃねえ】

「お側の方も歴戦の方とお見受けします。更には森の賢者であるハイエルフ様まで」

 ゲッコーさんは雰囲気が出ているから見ただけで凄いと分かるようだけど――、シャルナは様付けなんだな。

 やっぱりエルフって、人間から見ると偉大な存在なんだな。

 敬意を表して、二人にも丁寧な挨拶をする姫様。


「人形のようだ」

 挨拶を受けてのゲッコーさんの第一声。

 その言は正しい。ライラは褒め言葉として受け取り、笑みを湛える。

 愛らしいってのもあるが、ゲッコーさんが言いたかったのはニュアンス的に違うと思う。

 

 本当に人形のようなんだよな。人形が喋っているような感じがする。

 可愛くはあるけど、なんだろうか、横には初対面で姫様激ラブなライラがいるから口には出せないけど……、不気味な雰囲気がある。

 ホラー映画なんかに出て来る動く人形のようだ。

 夜中の暗い廊下に姫が立っていたら、間違いなく俺は悲鳴をあげる。


 身長は140センチくらい。コクリコよりも小柄。

 頭には姫らしく、赤い宝石が等間隔にはめ込まれたティアラをつけている。

 大人びた胸元の開いた青のドレス。

 若干くせのあるウェービーな金色の髪に、透き通るような水色の瞳。

 透き通るといっても、この場合は褒め言葉じゃなくて、虹彩の色素が薄いと例えるべきなのかな。

 疲れが目に出ているのかもしれない。

 

 父親である王様や王都の事を考えているはずだろうし、心労もある中で政務も手伝っているらしいから、疲れが表に出ても仕方がないだろう。


 目の疲れもそうだけど、肌も血色が悪い。

 白蝋じみた白さも不気味さを加味する。

 ちゃんと食べて、寝ているのか心配になってくる。

 庇護欲をかき立ててくる女の子だ。

 ライラは本当にこの姿を見て心配しないのだろうか。それとも常に一緒にいるから、変化に気付きづらいのか? それとも、元々こういう肌の色なのかな?


 ともあれ、


「お元気そうでなによりです。王もお姿を見られれば、さぞお喜びになりましょう。私達と共に王都へと戻りましょう」

 血色は良くないが、社交辞令な内容で話をすれば――、


「プッ」

 なんだ? なんで急に噴き出してんだシャルナさん。

 真面目な話をしているんだ。状況を理解しているのかな?


「自己紹介の時もそうだったけど、何なのあの喋り方。私達だって」


「言うんじゃない。俺まで笑いそうになる」

 ほう、ゲッコーさんも耐えていたんですね。

 へ~。俺の喋り方が変だったと。

 紳士的に話している俺の応援をすることもなく笑うとは、酷いですね……。

 怒りで体が震えてくるよ。

 まったくさ! ゲッコーさんは笑いを堪えて、わきまえてくれているからまだいいけど、コクリコほどじゃないにしても、シャルナも空気が読めない時があるよね。

 人々から賢者あつかいされているエルフだからって、調子に乗るんじゃないよ。

 ――――いいから笑うのをやめろ!

 目で伝えても、伝わらないこの気持ち……。


「楽しそうですね」

 いや、姫様。笑うところじゃないよ。

 でもって、ライラは姫様が笑うからって事で、便乗して笑うなよ。しかも空笑いで。面白くないなら笑わなくていいんだよ! ポンコツめ!

 美人はポンコツが多いな。とくに自分が好きなものの前になると顕著だな。

 俺の所の完璧中佐もそうだしな。


「失礼します」

 ここでランシェルちゃんが癒やしを与えにやって来る。

 笑顔だけで俺の怒りも癒やされる。

 更にはお茶も用意してくれている。

 ワゴンに乗った茶器とお菓子。

 ――……心なしかお菓子が少ないような気がする。

 

 枝分かれしたようなデザインのケーキスタンドには、果物がふんだんに乗ったタルトがあるんだけど、円を形成していないといけないはずだが、円の七割ほどが消失しているような……。

 ケーキスタンドのプレート部分に盛り付けられたタルトは、赤に、緑、黄色と鮮やかな果物を使った三種類。

 が――、どれも七割ほど無いような……。

 

 まあ、原因は、

「コクリコ――――か」


「ハハハ……」

 ランシェルちゃんの乾いた笑いが答えだな……。

 あの馬鹿! 恥を掻かせやがって!

 まずは姫様が最初に口に運ぶべきだろう。なんでドア前で殆どを平らげてんだよ。

 毒味役でも買って出たわけじゃないよな! 食欲に突き動かされやがって!

 というか一人で食ったのか?


「ベルは?」


「いえ、こちらで取り分けた後にいただくと」

 ランシェルちゃんに質問すれば、流石はベルと言いたくなる対応だった。

 コクリコは後で泣かす! 絶対に泣かす。

 カルロのヴェローチェで、追いかけ回して泣かす!

 というか、ベルもなぜに止めなかった……。

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