PHASE-951【押しても引いても駄目なら魔法だね】
俺の心でも読み取ったみたいに、
「これでもプリーストですから、補助と回復魔法はしっかりとあつかえる事ができます」
と、自信を見せてくれるアビゲイルさん。
自信を表現するかのように、右の食指にはめた指輪を俺へと見せてくれる。
シルバーリングにはBB弾ほどの緑のタリスマンが埋め込まれていた。
「マジックリングですね」
「はい。本来はスタッフやワンドなのでしょうけど」
「俺の知り合いに姫様激Loveの残念な眼鏡美人がいるんですが、同じようにマジックリングを使用してますよ」
「ライラ・マクシムスですね」
「知ってるんですか?」
「友人ですから。マールでは共に研鑽を積んだ仲です」
なるほどね。だから同じようなマジックリングを使用しているんだな。
プリーストとなればタチアナのアコライトよりも上位だし、ライラのような実力者と一緒に過ごしたらな間違いなく強者だな。
でも念のために、
「リン、護衛をつけといてよ」
この都市の代表者にもしもの事があっても駄目だからな。
スケルトンルインあたりを護衛にしてもらえれば問題はないだろう。
「頼んだわよ」
「了解~」
リンの声に応えたのは快活な声。
思ってたのと違ったけども問題はないな。
音も無く現れ空中に漂うのは、亜麻色の長い髪と玉肌。水色のエプロンドレス姿の愛らしい少女――オムニガルだった。
「久しぶりだな」
「そうだねお兄ちゃん♪ でも普段から見てたけどね」
「お、そうか」
「そっちのお姉ちゃんも久しぶり。少しは強くなったみたいだね。私ほどじゃないけど」
「は? いやいや、貴女は私に負けた存在でしょう。そして強くなったと理解しているならば、貴女が私に勝てることは更に無理になったと理解するべきですね」
「理解できませ~ん。だって私が強いから」
シャルナとリン。コクリコとオムニガルは混ぜては駄目だな……。
「あの、公爵様。あの子は」
「ポルターガイストのオムニガル・レイムレースです」
「ポルターガイストって……この子はアンデッドなのですか!?」
アビゲイルさんが驚くのも無理はない。
リンもそうだけど、オムニガルも肌の血色がいいからな。一目見ただけではアンデッドって普通は分からないよな。
まあ、宙に浮いているからその時点で普通ではないけど。
「オムニガル、この人の護衛をしてやってくれ」
「いいよ~」
素直なところはコクリコも見習ってほしいところ。
「じゃあ行こうか」
ゲッコーさんはAA-12 を構えた姿勢をとる。
扉が開かれた後の事を想定してのこと。
開いて直ぐにゲッコーさんが突入しやすいように、無駄のない動きを心がけつつ扉のハンドルを両手で掴む。
――……結構、力がいるな。
「むぎぃぃぃぃ!」
「なんと頼りない勇者なのでしょう。扉一つも開けないとは! ああ、情けない」
背後からのコクリコの声に対して相手をしてやる余裕はない。
むしろイラッとした怒りのエネルギーを諸手に伝える。
――……でも動かない。
ハンドルの形状は、潜水艦などの扉で目にする車のハンドルのようなもの。
右に回しても左に回しても、押しても引いてもびくともしない……。
「なんなんだこの扉……」
厚みのある鉄製の扉だというのは分かっているけども、こんなにもびくともしないなんて……。
ストレンクスンにインクリーズ使用の状態なのに……。
かといって、扉一つにブーステッドを使用するのは嫌だ。
「仕方ねえな」
手っ取り早く残火で斬ろう。
「まあ待て」
と、ベルに止められる。
斬ってしまえば扉は元に戻らない。
これだけ頑丈なのには理由がある。
だから止めておけと言われる。
理由は分かっている。この奥にはおっかないのがいるからね。
そいつ等を退治すればいいだけなんだけども、仕損じた場合も想定しないといけない。
もしかしたらこの施設から外に出てしまう可能性もあるかもしれないからな。
「う~ん、じゃあどうするよ?」
「多分だが、この扉もここに入ってきた時と同じような手法なのではないか」
「あ、なるほど」
ベルの発言に納得。
「リン、頼むよ」
「はいはい」
言えばフィンガースナップを一回ならす。
途端にハンドルが軽くなった。
「……リン……お前ここが魔法でロックされてたって知ってただろ」
「ええ、知ってたわよ」
「言えよ!」
「嫌よ」
なんて清々しい否定による返事なのだろう。
俺が馬鹿みたいに必死になって扉を開ける姿が見たかったんだな……。
本当に性格の悪い美人アンデッドだよ!
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