PHASE-561【聖龍以外のドラゴン戦】

 実につまらんが。 


「てことは――やっぱり」


「戦いだよ!」

 怒号と共にシャルナが矢を放つ。

 と同時に俺は各ピリアを使用。

 まだ可能性がとも思ったが、シャルナよりも先にドラゴンゾンビが俺たちに向けて、口から粘度の高い液体を吐き出してきた。


「汚い!」

 明らかに毒なので回避。

 イグニースで防げば毒霧に変わる可能性があるので、回避に専念。

 痰と言っても過言ではない紫色の液体を無事に回避。

 粘度のある毒が白銀を汚すとほぼ同時に、シャルナの矢がドラゴンゾンビの口部に命中。


「――――」

 無反応。アンデッドなので、当然とばかりに痛みは皆無のようで、口部に刺さった矢をものともしない。

 でも邪魔だとは思うのか、器用に前足で矢を取り除いていた。

 抜けた矢を見れば、鏃が煙を上げて溶け出していた。

 二射目は矢を取り除いていた前足に命中。

 やはりというべきか、前足に突き刺さる矢は、箆の部分から朽ちて折れる。


「触っても駄目ってことか」

 全身が毒みたいなもんだな。俺は大丈夫だろうけど、皆はアウトだろう。

 痛みを感じないから恐怖もない。これだけでも十分に驚異だな。

 でもヴァンパイアのゼノは苦しがっていたな。

 アンデッドでも知性のあるのにはそれなりの痛みとか恐怖ってのがあるんだろうな。知性があるが故って事かな。

 でも、眼前のデカいのにはそんなのはなさそうだ。

 大きく吸気を行う姿は、何度か目にした動作。

 ゆっくりと鎌首を上げるようにしてからの――、紫色のブレス。

 口から吐き出すよりも先に、長い首の数カ所より毒霧が漏れ出していたのが確認できたので、こっちの対応は素早いものだった。

 シャルナの半球状のプロテクションが俺たちを包み、ブレスから守ってくれる。

 地龍の毒ブレスに比べれば威力はないだろうが、驚異には変わらない。


「ボラァァァァァァァァ!」

 生者が自分のブレスを浴びているはずなのに、生きているからか許せないご様子。


「調子に乗りやがって。見せてやろうぜコクリコ」


「私に振るんですね。良いでしょう! ライトニングスネーク」

 黄色く輝く貴石。ワンドがドラゴンゾンビに向けられれば、宙をのたうち回りながら突き進んでいく雷の蛇が、胸元に直撃。


「ボォォォォォォォォ!?」


「お、効いてるぞ。痛みはないようだけども、魔力による衝撃は驚異と思っているようだな。もう一発だコクリコ、十万ボルト!」


「なんですかそれは!」

 なんて返しながらも二発目の雷の蛇を今度は頭部に見舞ってやる。

 バリバリと音を立て、ドラゴンゾンビの頭部から煙が濛々と上がる。


「これはいけますね」


「油断はするなよコクリコ」

 言いつつ、ゲッコーさんの手にするSG552のマズルが、小刻みに火を噴く。

 ズドドドドド――っと苛烈な音と共に、スケルトンタイプのマガジンから弾がなくなっていくのがよく見えた。


「――まあこんなもんか」

 三十発を撃ちきる。素早くリロードをしながらも頭部を注視。

 全弾が頭部に命中しているけど、流石に5.56㎜だと決定打にはならないようだ。

 集中的にくらった部分は鱗が剥がれ、肉は抉れて骨が露出しているが、そこで弾丸の進行は止まっている。

 脳みそまでは届いていないようで、ダメージを負っているようには見えない。

 痛みを感じることなく、俺たちを濁った赤い目で睨み付けてくる。


「突っ込んでくる」


「単調ですね」

 ドラゴンゾンビはゲームなんかでも力に全振りしているような存在。

 腐敗した体により状態異常を起こさせるってのもあるけど、基本は馬鹿力。

 ブレスも使用出来るけど、物理攻撃重視になりやすいのは、やはり知性が大きく欠如しているからかもしれない。単純な行動に傾倒しやすいんだろう。

 重々しい朽ちた体で迫ってくる動きは、俊敏ではない。

 羽も広げることはなく、体の動きに連動してバサバサと揺れる程度だ。


「ファイヤーボール」

 と、コクリコが継いで発せば、火球が胴体部に直撃。

 爆発してぶすぶすと煙を上げる。


「ガァァァァァァァ!」


「怒ってるな。やはり火が効果的か」

 ゲッコーさんが手に握っているのは、焼夷グレネードであるサーメート。

 投げれば、短時間だが炎が勢いよく噴出。


「シュゥゥゥゥゥ――」

 蛇の威嚇ような声を発して動きが止まった。

 あの炎に触れるのは良くないと判断したようだ。

 確かサーメートは、鉄骨なんかも溶かすほどの温度だったよな。


「元々が構築物の破壊に使われる物だが、歩兵が携行する程度のものだからな」

 と、残念そう。

 二、三秒程度の燃焼時間しかないのがネックだそうだ。

 炎が止めば、再びこちらへと巨体を揺らして接近してくる。

 今度は反撃をさせないためなのか、牽制とばかりに口から粘度の高い毒液を連続で飛ばしつつ迫ってくる。

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