PHASE-893【裏路地】
――――現実的ではないけども、俺の脳はしっかりと時代劇脳になっていたようで、人々の営みを同じ目線で見るために夕暮れのククナルの市井を歩いていた。
公爵だから護衛は必要だとマンザートは言っていたけど、俺としては目立ちたくないので兵士を侍らせての行動は拒否した。
なので――、
「ちょっとブラブラしますか」
「この辺の酒も気になるしな」
ゲッコーさんに付いてきてもらう。
というか、単身でも大丈夫だとは思うけどね。
というか、この人は本当に酒だけが目的だろうな。なにかあっても基本は俺に丸投げのスパルタだしな。
ゲッコーさんは何もしないだろうけども――、
「会頭のお供が出来るとは光栄です」
と、外見からは想像できない礼儀正しいカイルと、
「会談以来ですね」
マイヤが護衛についてくれる。
この二人が一緒ならもしもの事があっても対処できる。
――大きい町の大通りはどこも同じようなものだな。
活気があり人通りが多い。
ドヌクトス同様、魔王軍による直接的な侵攻を受ける事がなかったからか、店で売られる食材は豊富だ。
雪国ではあるけども、夕暮れ時でも人の数は多い。
寒さなんか関係ないとばかりに酒場の外では湯気を上げたマグカップの中身を美味そうに飲んでいる。
「美味そうだ」
「ですね~」
ゲッコーさんはマグカップの中身なんだろうが、俺は肴になっているトロトロのチーズやトマト、ベーコンが乗っかるブルスケッタに対する感想。
酒の肴だけでも中々に手の込んだ料理が多い。この町の豊かさが窺える。
王土との行き来が出来なくなってはいたけども、それでも他の領地と接する町は発展しやすいようだね。
いまはこのミルド領内のみでの交易がほとんどなんだろうけどな。
そう考えると嫌な事も思い出す。
この領地では普通に奴隷売買が行われているという事だからな。
他にも領主同士が領地を獲得するための小競り合いを奴隷や傭兵を使って争っているって話もあったな。
その辺もしっかりと正していかないと。
復活した爺様もいることだし、後は俺や先生がその辺を淘汰していけばいい。
「流石に北国だな。夜の訪れが早い」
「だからって直ぐに酒を飲まないでくださいよ」
「いいじゃないか。温まるぞ」
さっそく酒場で注文すれば、ゲッコーさんは酒を楽しむ。
ホットワインのようだ。
カイルもいいっすね~なんて言いつつゲッコーさんとともに楽しむ。
「ですがこれなら蔵元のとこの酒の方が美味いですね」
「分かってるな」
カイルの素直な感想に蔵元ことゲッコーさんが笑顔。
酒のことを褒められると嬉しいようで、酒の進みが早くなる。
「楽しんだら次行きますよ」
大通りはいいとして、こういった大きな町は一つ角を曲がれば――、おピンク街があるやもしれん。
マイヤがいる手前、建前はけしからん! だが。本音はメチャクチャ興味がある。
マイヤはお留守番でよかったんじゃないか。と、今更だが思えてくる。
馬鹿息子が無茶してたからな、風紀はがっつりと乱れているような気がするんですよね~。
エッロエロなド変態な店とかあるのかな。
無駄にドキドキしてしまうね。
――。
「随分とガラの悪いのが増えてきましたね」
などと言いつつ、カイルが睨めば目を反らす。
相手からすれば随分とガラの悪いのが睨んでくる。って思っていることだろうな。
如何にもな感じになってきたな。
寒空の下で綺麗なお姉さん達が店の前に立っているけども。あれは……もしかして天国への案内人なのでは?
案内に従って後についていけば俺は卒業できるってやつなのかな。
乱れまくってんのかな。風紀。
「一点を見すぎじゃないか」
ゲッコーさんに指摘されれば忙しなく視線を動かす俺。
残念ながらお姉さん達は俺達に声はかけてこない。
女性でしかも美人であるマイヤがいる時点で、声をかけるというアクションは起こしづらいようだ。
大通りの酒場と違って、店の中から怒号が聞こえてきたり何かが割れる音がするけども、店前の連中はリアクションをとらないから日常茶飯事のようだ。
――大きな町なだけあって夜であっても裏通りは喧騒に包まれている。
街灯はしっかりと設置されており、裏路地でも明るさは十分。
人の往来が多く、その往来の中から段々と人が密集するかのように一つの道に向かって歩いて行くのが確認できた。
この時間帯に大人数が同じ方向。しかも目抜きではく裏路地の更に奥。
こうなると怪しさ爆発。
なので俺達もその流れに逆らわないで進んで行く。
――結果、
「なるほど……これはベル達がいなくて良かった」
「まったくだな」
鷹揚に頷くゲッコーさんの声は鋭い。
でもって眼光も鋭い。
ベルもだけどゲッコーさんも嫌いだもんね。
コクリコだと有無も言わずに大立ち回りをするかもしれないな。
俺を含めて、ここにいる付き添いの面々は皆して不愉快になる光景。
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