PHASE-1532【貴重な回復ありがとう】

 背中に走る冷たさに体を震わせる姿を相手に見せてしまえば、


「武者震いでしょうか? 攻撃に対し戦意が高揚する。勇者ですね」

 まったくの見当違いですよ。

 的外れをするほどに、クロウス氏の中で俺の評価が高かったりするのかな?


「では、もっと苛烈に行きますよ!」


「御免ですね!」


「そう言わず! ガルム殿に見せた力を私にも!」

 俺が接近戦を仕掛ければ、それに合わせるとばかりに接近戦で対応してくるクロウス氏。

 とんでもない拳速。回避と火龍の籠手による防御で手一杯。

 反撃する機会は皆無……。


 防戦一方の中で、


「全方位ですよ」

 宙空に留まっていたブリッツスウォームを動かせば、発言どおりに全方位から迫ってくる。

 その間クロウス氏は動きを止める。

 電魔法が不得手なだけあって、自分の魔法にも警戒しているのだろうと思案しつつ、マスリリースとウインドスラッシュで迎撃をしながら数を減らし、


「イグニース!」

 困った時の炎の障壁魔法。

 いつ何時でも俺の危機を救ってくれた炎の障壁はドーム状に成形。

 

 ――……なんだけども……。


「これは厳しい!」

 バチンッ! バチンッ! と、雷ボールが障壁に触れれば、蜘蛛の巣のように広がる電撃が俺の障壁を削り取っていく。

 単純にマナであるネイコス使用者としての差による力負けということなのか、数発くらっただけで穴が空く。

 

 再度、展開をするよりもここは、


「逃げる」

 障壁を消し、アクセルによる緊急回避。


「逃がしません」


「がぎぃ!?」

 背中に入る衝撃。

 痛みといった感覚ではなく、ただ体全体を衝撃が襲うだけ。

 衝撃で意識が吹き飛びそうになるのだけは理解できるし、その原因がクロウス氏のアクセルによる追走からのオーラアーマーによる正拳突きだというのも理解できた……。


「攻撃を受けながらも状況把握とは恐れ入ります」

 という発言を耳にした瞬間に意識の糸がプツリと切れそうになったところで、


「倒れるのはまだ早いですね!」

 体にぶっかけられる液体。

 次には意識が鮮明になる。


「おお! コクリコ!」


「感謝してもらって結構ですよ」


「助かったぞ」


「私ではなくシャルナですけどね」


「てことは、グレーターポーション」


「そうです。この要塞へと来る前にシャルナから一本だけもらったんですよ」


「そうか。助かった」


「いえ、私だけ動きについていけなかったことが不甲斐ないです」

 と、俺とクロウス氏の戦いは、眺めるだけしかできないほどに素早い展開で進んで行ったそうな。

 コクリコはそうだったようだけど、ゲッコーさんとユーリさんは俺の動きを把握し、掩護をしてくれていた。

 必死だったから、いま気づいた。


「いやはや、これはこれは……」

 呆気にとられているクロウス氏。

 イグニースでブリッツスウォームを防いでいたけど、本当なら俺はあの時点で詰んでたみたいだ……。

 宙空に留まっていた大量の雷ボールがかなり減っている。

 もちろん俺が障壁で耐えたからじゃない。

 原因はゲッコーさんとユーリさんによるアサルトライフルでの破壊。


「以外と簡単に壊れますね」


「そのお陰でトールは感電しなくてすんだ」


「床に触れて放射状に広がりながら消えるのを見て、形状が乱れれば消滅すると判断して正解でした」


「まったくだ」

 二人揃ってマガジンをリロードしつつ言葉を交わせば、


「ブリッツスウォームは触れればそこで終わりですからね。衝突後も威力を維持するタイプのものとは違うのです」

 と、説明してくれるクロウス氏。


「だが威力は絶大。一つ当たればそれだけで瀕死か死だろう?」


「その通りです。強者ゲッコー殿」


「厄介この上ないが、対策が一つでもあるのは喜ばしい事だ」


「十分と発しないところに謙虚さと強かさが窺えます」


「お宅からも十分にそれが伝わってくるよ」


「強者よりの十分というお言葉――有り難く受け取らせていただきます」


「じゃあ、コイツもついでに」

 と、ゲッコーさんは手にしていたアサルトライフル・MASADAから武器チェンジ。

 次に手にしたのは対物ライフルであるバレット。

 ゲームなんかでよく目にするM82 ではなく、小型軽量化のバレットM95だった。

 それを立射にて構えるゲッコーさん。

 小型軽量したとはいえ、本来は伏射にて扱うであろう銃を立射で構えるところがゲームの主人公だよな。


「受け取ってくれ」

 の一言と共にトリガーを引く。

 大気を切り裂く音と衝撃は俺の所まで伝わってくる。

 12.7㎜が生み出す驚異のパワー。


「躱すか」


「躱さなければ今のは非常に危なかったと思われます……」

 発射と同時にクロウス氏の表情が瞬時に強張ったものになる。

 強力な魔法を消滅させることを容易くやってのけるけども、火力の高さを野性的な直感で察したのか、アクセルによる回避を選択。

 俺への追撃を諦めて距離を取ってくれる。


 水入りは有り難いけど、バレットの一発を躱せる身体能力は凄いの一言。

 プロテクションを使用しなかったのは、初めて目にする武器の火力が未知数だからってところか。


 躱されても慌てることなくボルトアクションにて次弾を装填すれば、直ぐさま距離を取ったクロウス氏へと銃口を向けるも、


「撃たせませんよ」

 宙空に残っているブリッツスウォームのいくつかを放って射撃体勢の妨害。

 その間に残りを自分の前に集め、整然と並べて放つ。

 回避などさせないといった気概が伝わってくる面制圧。

 

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