PHASE-13【教訓、余計なところまで言うのは駄目だ】

 現在ビビらされているが、これだけは引けない。何としてでも彼女に協力してもらわないと困る。

 俺は日本に絶対に帰りたいから。


「そもそもの話、お前が私を召喚だと? そんなファンタジーな話を信じる方がどうかしている」

 信じてもらえないのは理解できる。

 ベルヴェットが登場するゲーム、ワルキューレ・クロニクルの世界は、ゲームオリジナルの地名だけど、設定は第一次世界大戦ダブダブワンを題材にしている。

 だから、俺と同じ現実に近い仮想世界だ。魔法なんかあり得ないと考える思考を持っていて当然か。

 当の本人は体に炎を纏って、それを飛ばしてるけども。


「俺は嘘をついていない。ファンタジーな話は信じられないと言ってるけど、ベルヴェット――さんの世界に、オークなんていないだろう」


「う、むぅ……」

 返答に詰まった。この場合の詰まりは、信じてくれてるって思っていいかな?

 ここで一気に信用を得るために畳み掛けるぜ!


「俺、ベルヴェットさんの事は本当に詳しいんだぜ」

 プロニアス帝国で、若くして中佐になり、炎の能力だけでなく、銃、剣術、体術に用兵と、非常に高い才能を有した才女。

 炎を操る能力から、神の使いであると、降臨者と称され、戦乱の世において、闘神の加護を受けた存在として、帝国では崇め奉られた存在になっている。

 容姿も端麗だから、兵達の間では戦乙女とも呼ばれており、すこぶる人気も高い。

 異質な力ゆえに、幼少時代、人体実験の危機もあったけど、皇帝によって擁護され、それ以来、幼心に芽生えた皇帝への忠誠心は、今もぶれることがない。

 ――――熱弁してやった。

 ゲーム雑誌やネットでの情報に、死ぬ前に見ていた設定集の内容を事細かに伝えた。


「よく理解している」


「だろ、年齢は十八歳。身長は俺より1センチ低い172だ。スリーサイズだって言えるぞ! 上から94、57、88だ!」

 ――…………やっちまった……。

 しじまな空間になってしまった……。

 スリーサイズは言わなくてよかったよ。完全に地雷を踏んだ……。


「本当に――――、よく理解しているようだな……」


「あ、いやその、あのですね……」

 震えている。なんか今にも体に炎を纏いそうな勢いなんだけど――――、熱いのはごめんだぞ……。

 とか警戒していれば、バッチンって音が俺の頬部分から発生。

 目から火花ってのはこういう事かってのが体験できた……。チカチカする。

 で、本当に痛い時って、声って出ないんだな。


「あべっ!」

 地面に転がることで、ようやく声が漏れた。

 ――……くぁぁぁぁぁぁあ! 左頬が尋常ならざる痛みに襲われている。でもって、熱い! 熱いのはごめんだと思ってたのに、俺の左頬が熱くてジンジンする……。たまらんぜ……。


「貴様が私を理解しているのは、本当に理解できた。甚だ不愉快であるが、虚言を述べているわけではないな。平手打ち一つで許してやろう」


「ふぁい……。ありぎゃとうございまっふ……」

 左目からだけ、涙がボロボロと出てきやがる……。

 地に伏す俺を見下してくる様は、軍人のそれなのだろうか。

 ドMな性格だと、このシチュエーションはたまらないものがあるんだろうな……。

 俺は御免だけども。

 皇帝に対する感情のほんの一欠片でもいいから俺に持ってくれよ……。Give me 忠誠心……。

 まったく、ゲーム機から召喚した最初のキャラなんだから、従順であってほしかった。

 初心者にまったくもって優しくないチュートリアルだ……。

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