PHASE-752【同種族を斬る覚悟】
「戻ったか」
「随分と王都も賑やかですね」
「特に北の方がであろう」
俺たちが帰ってくると知った王様は謁見の間ではなく、軍議室の円卓にて待ってくれる。
ベル達も先に軍議室にて俺たちの事を待ってくれていた。
王様は立った姿勢から俺たちの元へと歩んで労ってくれると、真っ先に俺たちを座らせてくれる。
この辺が上座に座る馬鹿息子との違いだろう。
あまりにも低姿勢だから、見ようによっては慇懃無礼って思われるだろうけど、王様の場合これが素なんだよな。
本当に先生は俺に言うより、王様に人垂らしの才があると言うべきだね。
――――一通りのことを話す。
会談としてまったくもって実のなかった事に、相手は間違いなく動き出すことだろうと伯爵が嬉々として語れば、王様は鷹揚に頷く。
ドーナツ状の円卓の中央が定位置の先生は、予定通りとばかりに悪い笑みを湛えていた。
「すいませんでした。俺が焚き付けたようなものです」
あまりの不快感に拒絶発言をした事で大事に発展したからな。
俺の精神の幼さが露呈した情けなさもある。
「いや構わん。どのみちこうなるのだろうからな」
王様は全くもって俺に対して怒りを述べない。
どう言ったところで聞き入れるほどの器を相手が持っていないのだから仕方ないと言ってくれる。
必死になって魔王軍と戦う為に集中していれば、状況も考えず場当たり的な野心的行動でカリオネルは背後を突いてくるのは必至。
それどころか自身が王になれるならば悪魔との契約だってするかもしれない。
悪魔――つまりは魔王軍との盟約。
そうなってしまえば挟まれた状態になってしまうし、人間にエルフやドワーフという種が根絶の危機に晒されるだろう。
ならば、ここで確実に叩いておいたほうがいい。
例え自身の父の弟である叔父と軋轢が生まれようとも、ここで廃さなければならない。
決心を口にはするけども、やはり発する声には些かだが暗さがある。
口ではそう言っても、やはり内心では躊躇があるんだろうね。
そんな王様とは正反対に笑みを見せる先生は――、今後の対策は万全。後は動くだけと述べる。
今ごろ砦では有能な増援が砦にて迎撃の準備を整え、渓谷の反対側に目を光らせてくれていることだろう。
後は王様が号令を発せば、王都より軍勢が北へと動くわけだ。
「トールに供の者達。エンドリューにバリタンもゆっくりと休んでくれ」
「我々は直ぐさま踵を返し、あの馬鹿を殴り倒したいのですがね」
「バリタンも今日は休め。後日、力を振るってもらわないと困るからな」
「御意!」
――――うん。
「戦いか」
「のようだな」
「ベルは大丈夫か?」
「今までとは違うからな」
人間同士の戦いだ。
ベルはゲーム内でも軍人として敵対国の人間たち――つまりは主人公サイドと戦っているから覚悟はあるのだろうけど。
「不安か?」
「ここで平気や大丈夫と答えたら、その人間も大概だろうな。だからベルも俺の大丈夫に対して肯定ではなかったんだろ?」
「随分と言うようになったな。まあ事実だが」
いくら戦争とはいえ、やはり人の命を奪う行為ってのは難しいよね。
毎回この問題が心で引っかかる度に、亜人やモンスターには悪いとは思うけども。
同じなりの者達と命の奪い合いとなると、やはり精神的にくるものがあるのは事実だ。
「だが――振るわなければならない時は己が剣を――」
「振るわないとな。周囲の大切な皆のために俺も残火を振るう」
「そういう事だ」
二人してしみじみと語ってしまう。
「覚悟、そして決意。その思いを常に心に留め決断をすることは大事だ。心に留めぬまま誰彼構わず命を奪えるの者は、歪んだパニッシャーかサイコパスのような総じて狂った連中だけだ。倫理を以て力を振るえば、自我も保てる。自我が保てれば己を律することも出来る。律すれば奪わなくていい命は奪わない選択も出来る」
ここでゲッコーさんも参加。
俺が初めて命を奪った時も救われた言葉を言ってくれたよな。
ここぞという時に教え導いてくれて、精神面から支えてくれる格好いい大人の存在は、非常にありがたいものである。
俺がチート主人公なら何も迷わずに一人で行動するんだけども、そうじゃないからね。
本当にありがたい仲間達である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます