PHASE-897【現着遅いぞ、何やってんの!】
――内容を読めば暫定公爵として確かにカリオネルの名が書かれており、公爵家よりの許しで奴隷売買を許可されているというものだった。
認可する代わりに売り上げの二割を公爵家――ではなく、カリオネル個人に納めるように書かれている。
なんともこすっからい自称暫定公爵様だな。
「ふむん」
「どうだ! 俺達はまっとうにやってんだよ」
「ティンダー」
「はぁあ!?」
便利だな初期魔法。
こういうのを燃やすのには丁度いいよ。
「ゲッコーさん火です」
「これは助かる」
と言いつつ、煙草を一本口に咥えれば、燃える羊皮紙に先端を近づけて吸気。
紫煙を燻らせて嗜好品を楽しむ光景を目にすれば、
「なんて事をしやがる小僧!」
と、商人は顔真っ赤。
「口は強気だけどもその小僧相手に及び腰だな。許可証って事みたいだが、こんなもん尻を拭く以外使い道はない。だから燃やしても問題ないだろう。おかげで一本楽しめてる」
「なに……おぅ……」
クク――と悪そうに笑いつつ紫煙を吐き出しながらそう言えば、商人の男はゲッコーさんに完全に呑み込まれた様子。
強気な発言も出来ず、恐怖心から戦慄くだけ。
胆力のない奴のようだからな。ゲッコーさんに正面切って言い返せないのは仕方ないな。
でも口を開いてくれないと話も進まないので、
「さて、お宅――もしくはお宅等の本店まで案内してくれるかな」
「誰が!」
ほらね……。俺が話せば一気に強気になる。
及び腰だったくせにね。
ゲッコーさんと比べた途端に、俺に対して強気になるってのはどうよ……。
俺ってやっぱり威厳がないのかな~。このおっさんの前で用心棒のほとんどを倒したのは俺なのに。
「こんな事をしてこの町――いや、この領内から無事に逃げ出せると思うなよ」
「この領内。つまりはこういったことが各地でも横行しているって事か」
「横行というな! 俺達は歴とした商売としてやってんだ」
「だから禁止」
「そんな権限などあるか! それこそ横行だ」
「横行じゃない。俺が禁止と言えば禁止なんだよ。ねえ」
皆に聞けばちゃんと肯定にて返ってくる。
「訳の分からん小僧だ。少し強いからといって勘違いか」
「勘違いじゃねえよ」
「いいか。お前は暫定公爵様の許可証を燃やしたんだ。それはこの地に対する反逆だぞ」
「知らねえよ。活版印刷で多く刷ってるような許可証に、馬鹿の代理が判を押してただけだろ。あの馬鹿が単純作業なんて面倒くさい事をするわけがないからな」
「お、お前……。なんて大それた発言を。斬首だぞ!」
「なるわけないだろ。あいつは既に生者じゃないんだから」
「お前……もしかして王軍の者か!?」
「王軍というか。この地の新しい公爵になった者だ。だから俺が禁止と言えば禁止なの」
「――ハッ! 王軍ってだけにしとけば説得力もあったのにな。新しい公爵って発言で全てが嘘になっちまったな小僧」
ひどいじゃないか……。
なんで公爵なのに公爵と言ったら嘘になるんだよ。
及び腰が勘違いだったとばかりに、笑みを湛えて十全な強気に転向。
そんなにも俺は威厳がないのか……。
「何事だ!」
「これは兵士の方々、警邏ご苦労様です。聞いてください。この連中が私共に暴力を働き営業を妨害。そのうえ商売用の許可証まで燃やしたんですよ」
「なんだと!?」
「なんだと!? じゃないよ! 来るのが遅いよ。遅すぎだよ! 大立ち回りしてたんだから騒ぎを聞きつけて即応しなさいよ!」
と、俺が説教。
イラッとしたのかキッと睨んでくる三人の兵士たっだけど、直ぐさま目を見開く。
「これは!? 公爵様!!」
「どうも!」
俺の前で片膝をつけば、商人のおっさんは「え?」と、呆気にとられていた。
にしても遅い登場だし、もしここに立っていたのが俺じゃなかったなら、この兵士たちは商人側に協力するつもりだったんだろうな。
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