PHASE-129【タイマン】
「腰抜けどもめ! それでも流血を浴びることに無償の喜びを得る種族か!」
「うるせえな! ぎゃあぎゃあ叫んでないでお前が向かってこいよ。魔法が上手くこっちに決まらないからって、部下に当たり散らすなみっともない。誰もお前なんかの為に、命をかけようなんて思うもんか。お前が負ければさっさと撤収するさ。だから一騎討ちで方を付けてやるよ」
――……俺は一体なにを言っているんだ。
勢いのままに一騎討ちとか口にしてしまった。
ベルはやはりこういうので滾るのか、
「行ってこい」
軍人としての笑顔で俺を励ましてくれる。
童貞は美人のどんな笑顔でもありがたい。
「なぜ一騎討ちなのだ? こちらが数で有利であるのに、そのようなリスクを負うのは馬鹿馬鹿しいだろう」
だよな。一騎討ちなんて不利な方が、一か八かで願い出るもんだからな。
断られるのが当然だな。
戦略シミュレーションだと、断る方の兵の士気が落ちたりするんだけどね。
こいつの場合は、兵から慕われていないだろうから、士気は落ちるかもな。
いや、本当に、落ちるだろう。
なら――――、
「偉そうなのは口だけだな。人の倍、腕を持っているし、それを誇示しているのに、挑戦を受け入れることも出来ないとは、狭量だな。二度と部下に偉そうにするなよ!」
「下等種族が生意気な! 終わりを迎えている人間共が我と一騎討ちなどという発想が生まれることが不快だ」
「わかった。わかったよ。口先だけの上位亜種じゃなくて、ただの亜種のマレンティ」
ベルを真似て、見下すような笑みを向けたつもりだが、普段そんな表情をする事がないので、多分だが変な半笑いになってるだろうな。
でも効果は抜群。
今までの記録を更新する顔真っ赤だ。
俺はオンラインゲームだと煽り行為とか一切しないのに、どうやら、煽る才能があるようだ。
なんならこの場で屈伸してやろうか?
「下等種族がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お! 来るか?
――――あれ? 来ないか? 動く気配が無いぞ。
「あいつを殺せ! 愚かな存在が! 我が直接、戦うわけ――――」
「いいから、さっさと戦え」
マレンティは氷結系の使い手なんだろうが、それ以上に場をひんやりとさせる声。
しじまが要塞内を支配する。
凍らせる声の主はもちろんベルだ。
同時に、マレンティの氷の壁が急に溶け始めた。
「なぜ!?」
「私がその程度の氷を溶かせないとでも? くだらん。手心を加えてやれば調子づいて」
パチンとフィンガースナップ。
ごうと音をたてて炎が逆巻けば、瞬時にして氷が蒸発。
炎の壁付近の岩がドロドロに溶け出し、溶岩のようだ。
蒸発する氷が原因で、空間が異様に蒸し暑い。サウナだな。
「一騎討ちをしろマレンティ。それとも私と一騎討ちを所望するか?」
しゃなりしゃなりとマレンティへと接近するベル。
赤い髪が生き物のように動く。
「お、おのれ……」
ホブゴブリンもそうだったが、絶対に覆す事の出来ない力を見せつけられて、恐怖に支配されているようだ。
「来るがいい!」
必死になって開いた口。
向けられるトライデントの穂先は――――、俺。
「やっと挑む気になったのかよ」
自信ありげに俺は返すが、内心はドキドキだ。
俺と違って魔法を使用出来る。しかも多様にだ。
そんな相手に一騎討ちを挑んでしまった俺。
となれば、味方は手を出さないだろう。いざとなったら救ってくれるだろうが、大言と虚言を嫌う美人中佐の期待に応えるためにも、有言実行の結果を出さないとな。
人生二度目の命をかけた一騎討ちだ。
いや、前回の相手は一騎討ちを自分から宣言はしてなかったから、今回が実質、人生初の命をかけた一騎討ちだな。
「ティオタキ・ベロイカが手ずから相手をしよう」
「遠坂 亨。別に名前は覚えなくていいぜ。どうせすぐに記憶する事が出来なくなるんだからな」
――……言って気付くのは、この台詞は、そこそこの力を持った、主人公に相対する存在の台詞によくあるような……。
結局は主人公に負けるって言うね……。
漫画、アニメのやられ役たちの思いをここで払拭してやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます