PHASE-681【これまた庇護欲っ子】
「イルマイユは俺たちが全力で守る」
「ふ~ん」
「マジだぞ。俺のギルドで擁護する。危害なんて一切およばないようにする。護衛だってつけるぞ」
「勇者がそこまで言うのだから、守れませんでしたとはならないわよね」
「ならないとも」
とはいえ、常に前線に立たないといけない立場の俺がずっと守るって事も難しい。
王都に戻ったら先生に頼んで、有能な人材を護衛につけてもらおう。
カイルたち古参メンバーの中からが適任だろう。
ゲッコーさんにお願いして、S級さんの中からもお願いしたいね。
S級さんなら一人でも十分な護衛役になってくれるだろう。
「ですが、あまりにも物々しくすると、むしろ何者なのかと視線を浴びることになるでしょうね。ただでさえドラゴンなんですから」
「確かにな。ほどほど。やり手。誠実を兼ね備えた存在から選ぶのが重要だな」
「私からもアンデッドの護衛はつけるからその辺は問題ないわよ。問題は――」
俺たちの視線がイルマイユに注がれる。
このままこの地底湖にいるのもいいだろう。ここなら危害を加える者が現れるってのは外の世界に比べれば確実に少ない。
「ボクは……」
長い首をうつむかせて考え込む。
同族が冒険者に酷い目に遭わされたって事もあるから、人間に対する恐怖心は大きいだろう。イルマイユにとっては決死の選択でもある。
でもこんなところに籠もっていても成長は望めないだろう。
やはり見聞は広めてなんぼだからな。
「ボクは――もっとこの世界を見てみたい。人間は怖いし嫌いだけど、この世界がどうなっているのか、聞かされるだけじゃなくこの目で見たい」
言葉尻は何とも力強い言い様だった。
「じゃあ決まりだな。宜しく頼むよ」
「こちらもだよトール」
ボシュンって大きな音がすれば、イルマイユが白煙に包まれ、次には――、
「……え?」
固まる俺。
まいったな。思考が追っつかないぜ。
さっきまで馬サイズの首の長い白い龍がいたわけだが、突如としてコクリコくらいの身長で角の生えた女の子が出現。
しかも全裸。
「よろしく。トール」
「……」
「固まってないで別の方向を向きなさい!」
「パブッ!?」
リーンと涼やかな音が俺の顔側面から響き、視界が天井へと向く。
コクリコが所持するミスリルフライパンによる下方からの打ち上げによって、強制的に上を見る事になった。
コクリコとの身長差による一撃。下方からの強烈なもの……。
あと少し下の方を打たれたら、顎先へと直撃し、一発KOだっただろう……。
もう殴られるのはゴメンなので、体ごと明後日の方向を向く。
程なくして――、
「まあ、いいでしょう」
リンの声を合図として振り返れば、
「あら可愛らしい。着る子が違うだけでこうも変わるんだな」
急場でコクリコのローブを借りて肌を隠すイルマイユ。
黄色と黒の二色からなるローブ姿は、派手で愛らしいテルテル坊主のようだった。
イルマイユを褒めていれば、持ち主からは、
「このダンジョンでのラストバトルといきますか?」
「いえ、結構」
俺の発言を侮辱と受け取り構えるコクリコ。
青白い輝きで神々しかったミスリルフライパンが禍々しく見えるぜ。
「しかし驚いたぞ。人間みたいになれるんだな。ドラゴニュートっていうんだっけ?」
ゲーム知識だと竜人であるドラゴニュートは、亜人系の中でも最上位に位置する能力を有している。
「ドラゴニュートとは違って、この子は正真正銘のドラゴン。高位のドラゴンは擬人化できる力を有しているものよ」
「へ~」
恥ずかしそうにリンの後ろに隠れて、ひょっこりと顔だけを出している仕草に、リズベッドに負けないくらいの庇護欲を抱いてしまう。
――――尊い。
ドラゴンの時にも同じような事をしていたが、全くの別物だな。
ひょこりと出す髪の色はベルのような白銀で、くせ毛のない長い髪。
ドラゴン時は青色だったが、擬人化すれば瞳の色はオレンジ色に変化している。
黒目はやはりドラゴンだからか、縦長のまま。
で――、
「目を引くね」
ミストドラゴンの時と同様に、片鎌槍のような形状の角が耳の上側から生えている。
髪で隠されているから生え際は分からないけども、角全体は半透明の青いクリスタルで出来ているように美しいものだ。
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