PHASE-993【サミュエル】
「「アーチヒール」」
と、遠のく意識の中でシャルナとリンの声を聞き取れば、俺の意識がたちどころに戻っていくのが分かった。
「蝉はごめんだ!」
つと立ち上がって叫んでしまう。
「なにやら錯乱しているようだが、無事ではあるな」
と、ここでゲッコーさんが俺の前に立っている光景。
「邪魔をする!」
「これは集団戦だからな。いくらトールの成長を望んでいても、その当人が命を落としては意味がない」
俺とマジョリカの間に立つゲッコーさんがマジョリカを牽制していた。
たまらずマジョリカは距離を取っている。
「ナイフ一本で上手く追っ払いますね」
「使い慣れているからな。錯乱からは立ち戻っているか?」
「問題ないです。もう少し遅れてたら、銀髪銀眼の巨乳死神に再会するところでした」
「……本当に……大丈夫なのか?」
本気で心配されてしまった。
そんなゲッコーさんが手に握るのは、刃渡りが15㎝ほどのサバイバルナイフ。
マジョリカの刀と比べれば遙かに短いけど、チートさんが使用すればナイフでも十分な刃の結界になる。
「油断したな」
と、ここでベル。
抜剣はしてないけども、柄をしっかりと握っていることから、ゲッコーさんと共に俺の為に牽制してくれている。
ベルの場合は圧による牽制ってところ。
この二人が前に出れば流石にマジョリカも動けない。
「ああ、油断したようだ」
返事はしたが、何が起こったのか正直よく分かっていない。
力が無くなって意識が遠のいていたから。
分かっていることは、紫色の輝きと、死にかけてたってことか。
「回復が間に合っていなかったら、間違いなく死んでたよ」
「そうだな……ありがとう」
コクリコのフォローをしつつ、俺にもしっかりとフォローをしてくれたシャルナに感謝。
声の度合いからして、俺は危機的状況だったようだ。
本当にセラに再会する事になったかもな。
蝉が原因で死んだ時は、大笑いで迎えられた。
あそこに戻ったらまた笑われていた事だろう。
「中々に派手だったわね~」
ゲッコーさんやベルのような真剣な表情とは違い、シャルナのように心配するわけでもなく、ただ笑みを湛えているリン。
セラとはまた違ったイラッとする笑みだ。
回復してもらっているから、表情には出さないけども。
大体、何が派手なのか? 発言の意味が分からなかったが、直ぐに理解できた。
俺の周囲を見れば、確かに派手だった……。
「おお……」
真っ赤な鮮血が俺の前方に飛び散っている。
間違いなく俺の血だな……。
――……恐る恐る火龍の鎧に触れても傷はない。
的確に首部分だけをやられたようだ。
兜はしてなくても火龍の鎧の効果で体全体は守られてもいるんだけどな。
それを突破して深手を負わせる攻撃だったか。
「本来は首を斬り落としたかったのだが、深く斬るまでには至らなかったな。装備の性能に救われたな」
さいですか……。
俺の動作で俺が何を思っていたのかを理解したマジョリカからの小馬鹿にした発言が投げつけられる。
実際、火龍装備様々だったようだ。並の装備だったらチョッパールート確定。
――で、あれが俺の首をチョッパーしそうになった武器か。
「何だよ。フォースの使い手なのか? なんでライトセーバー使ってんだよ。色味からして
「それだけの冗談が言えるなら、頭も冴えてるし体も問題ないなようだな」
「ええ、大丈夫なようです。ですが、せっかく前に出たんですから、ついでに倒してくれると嬉しいんですけど」
「――次は当たるなよ」
本当にスパルタだねゲッコーさん……。
でもってベルも俺から距離を取って後方に下がるし……。
「まずい時は直ぐに回復してあげるから安心しなさい。まあ即死の時はアンデッドにして使役してあげるわよ」
リンの発言は優しさがあるようで無いよね……。
そしてアルトラリッチが言えば冗談に聞こえない……。
蘇生魔法でお願いします。
さて――、
「続きをしようか」
「死にかけたが、直ぐさま挑めるだけの気力はあるか。流石は勇者だな。いや――蛮勇と言うべきかな」
「そんな事はいい。それよりその光はなんだ? 紫のソレが許されるのはメイス・ウィンドゥだけだぞ」
「メイス・ウィンドゥ? 誰だそれは?」
「それは言っても分からないから流せ。で、鞘から伸びる紫色の光刃はなんなんだ?」
「これか? 勇者であるのにサンダーエッジも知らないのだな」
「悪いね無知で。こう見えてこの世界での活動はまだ一年くらいだからな」
――――そうか、一年は経ってるな。てことは、俺は十七歳になっているのかな?
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