PHASE-565【テンプレでスケルトンだよね】
山城って事もあるのか、スペースの関係上、この巨城を守る城壁は一つ。
二重三重からなる城壁ではない。
まあ、城壁の代わりになるのが天然の要害なのだろうけど。
少し歩けば噴水のある庭園に足を踏み入れる。
当然だが水が噴き出すなんて事はない。
常緑樹だったであろう立ち枯れた観賞用の木が植えてある植樹帯が、石造りのガボゼまで案内してくれる。
ガボゼは所々が経年劣化により崩れ落ちいて、腰を降ろしてゆっくりするって事は出来ない。
一つ一つの光景が、俺たちに寂しさと不気味さを伝えてくる。
「ホーンテッドって感じだな。ベル、気配は?」
「問題になるほどではないな」
感知能力が高いベルは何かしらの気配を感じているようだけど、気にはしていない。
「でも、鬱陶しいよ」
炯眼で辺りを睨み付けているシャルナ。
ベルは取るに足らないといったところだけど、シャルナには不快なレベルらしい。
シャルナが言うには、目には見えない悪霊の類いが、この辺りに跋扈しているそうだ。
目に見えないってのが怖い。見えないのに周囲にいるって凄く嫌だな。
いっそ見えている方が対応も出来るってもんだ。
自然と残火の柄に手を添えてしまう。
目に映らないのはそれだけの力しか持っていないから大丈夫とシャルナは言うけど、
「もし悪霊の中に、ゲッコーさんみたいに気配も消せる完全不可視な高位のヤツが紛れ込んでいたらどう対処するんだ?」
「その時は覚悟を決めることだね」
なんとサバサバとした言い様のエルフなのだろう。
発言を耳にした俺は、柄に添えていた手をしっかりと握り込むことに変更。
――――庭園を通過すれば、左右に等間隔に立つ柱の通路へと風景が変わる。
通路は城の内部へと続く。
灯りなんてないから通路の先は闇そのもの。ビジョンを使用するも、寂しい通路が続いているだけだ。
やや弧を描いていることから、回廊のような構造の通路のようだ。
「ここまで来ればしっかりと力が伝わってくるな」
ベルの発言に警戒を強める俺たち。
聞けば、俺が今見ていた通路の方向から力が漏れ出しているそうだ。
シャルナのほうも見てみれば、瓜実顔の頬から汗が伝っていた。
この寒い世界で汗が伝う。
ここから先は一層の警戒が必要ということだろう。
コクリコのためにフラッシュライトを点灯すれば、ゲッコーさんはそれをコクリコへと渡す。
で、自分もSG552のライトを点灯して、かんじきを外してから先頭を歩んでくれる。
夜目が利くにしても、しっかりと周囲が光に照らされれば不安が取り除かれる。
こうやって壁に囲まれた暗がりの中を歩くのは、リオス近くの洞窟以来だっけ?
奥の方からダイヒレンみたいな恐怖の存在が出て来るって事だけは勘弁してもらいたい。
寒冷地帯だし大丈夫だとは思うけど、もしダイヒレンが出て来れば、ベルやシャルナはキャアキャア叫んで活躍してくれないだろうからな。
――――更に進む。やはり通路は弧を描く回廊だった。
そこそこ歩いているが、いまだに俺たちが響かせる足音だけが通路を支配していた。
静かに歩いているつもりでも結構響いている。
これだけの足音を立てているのだから、相手側にもしっかりと伝わっていると思うんだけどリアクションが――――、
「何かが来るぞ」
無いと思いたかったが、ベルが正面を睨む。
回廊の奥側からカシャカシャという音。
音の間隔からして歩いていると思われる。それも複数。
アンデッドでカシャカシャと音がするとなれば、視認しなくてもなんとなく分かる。
「――はたして正にだな」
目の前に現れたのはスケルトンの集団。
眼窩には淡い緑色の光が宿っており、ぎこちない歩みで接近しつつも、淡い緑色の光はしっかりと俺たちの方に向けられている。
骸骨の手にはバリエ―ション豊かな装備が握られている。
ショートソードにメイス、バックラーなどのスモールシールド。
両手持ちのタイプは大剣もいれば槍持ちもいる。
この回廊だと槍のような長物は、槍衾で陣形を組まないかぎり役に立ちそうもないが、そういった陣形でもないし、槍を持っているのが先頭に立っているわけでもない。
隊列を組むこともなく、ただ歩く事だけに意識を集中しているってだけのようにしか見えない。
とりあえずこの城の現城主の守り手であろうから、いきなり戦いは挑まない。
アンデッドだから生者を見れば問答無用で襲ってくるかもしれないが、パーティーの責任者として俺が一歩前に出る。
肩越しにコクリコを見れば肩を竦めて返すだけ。
更に一歩前に出れば、スケルトンの集団はピタリと止まる。
恐怖耐性とかの加護が無いから怖いけども、入城してからの初見がスケルトンなのは助かった。
これがウーアーとしか言わないゾンビなら、俺はダッシュで逃げているだろう。
一度、深呼吸。
この動作をするまで待ってくれているから、これはちゃんと挨拶をすれば話が通じそうな気がする。
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