PHASE-446【きつそうな案件】
「彼女たちにはまだ聞かなければならない事がありますので、しばらくは我々が身柄を預かります」
「そんな……」
何を残念がっている。悲哀に満ちた顔にまでなって。それでもこのバランド地方の領主ですか!
「イリー」
呼べば鎧の擦れる音と共に、強い足取りで入室してくる。
「いかがしたトール殿」
「閣下はお元気。しかし体も心もまだまだ力が漲っていないご様子。しばらくの間、お前とここにいる騎士団で心身を鍛えてやってくれ」
「承知した」
俺はあえて六花のマントをイリーへと見せつける。王に代わっての発言であると暗に伝えれば、満面の笑みを湛えてくれる。
大義名分を得たことで、侯爵をビシバシと鍛えてくれるだろう。
そんな美人騎士団長が俺へと接近。
美人の至近距離に早鐘を打つ俺の鼓動。
耳打ちとばかりに俺の耳元へと近づけば、
「まだ姫様のことは言っておりません。快気してからと考えています」
「うん。それは正しいな。その辺りは俺たちも箝口令を敷いておくよ」
特にコクリコが直ぐにでも口を開きそうだから。
ここはメイドさん達を引き連れて、イリーと騎士団を残して皆して足早に退室。
一瞥すれば、なんとも寂しげな表情だった侯爵。
メイドさん達から、騎士たちに代わる。共通するのは両方とも頭に美人がつくことだが、侯爵に対しての接し方は百八十度変わるだろう。
甘やかしは一切ないものだな。
回廊へと出れば、コトネさんが待っていた。
待っている理由は理解している。
「先ほどの続きを聞かせてください」
「畏まりました」
姫の事での話だったからな。
解決策があるとするなら、それを知ってから侯爵に伝えるのがいいだろう。
忠誠心の高い存在が、自身の隙によって、忠誠を誓う存在の娘をヴァンピレス化させてしまったと知れば、今度は心労で倒れるかも知れないからな。
――――場所を変えて、別邸から本邸へと移動する。
姫様を交えても良かったかも知れないが、希望的観測である以上、期待を与えるよりは確定した内容の方がいいからな。
「どうぞ」
本邸の一室を借りて、コトネさんとランシェル。あと数人のメイドさん達とテーブルを挟んで向かい合う。
椅子に腰かけていないメイドさんが俺たちにお茶を出してくれる。
さんざっぱら俺はハーブティーでえらい目にあっているから、ついつい警戒をしてしまうが、ゲッコーさんは気にせず飲んでいる。
もう脅威は無いということだな。
香りが鼻孔に届けば、以前、飲んだ記憶のある香りだった。
メイドさん達の休憩室でいただいた紅茶だ。
ベルが紅茶を口に含めば、柔らかな笑みを湛えていた。
やはりいい代物のようだ。
「まずは謝罪をさせてください。勇者様一行に大それた行いと、この地の人々を――――」
「いいですよ。無理矢理に戦わされていた人達は、謝罪なんてしなくていいんです」
「ですが――――」
「侯爵だってサキュバスさん達に囲まれてデレデレしてましたから。この地の領主がああいう顔を見せている時点で許していますよ。ここで働いてもらいたいとも言ってましたし」
コトネさんの発言を全て途中で断ちつつ、俺は笑顔で述べる。
なんの恨みもない。あるわけがない。それらは全てゼノの撃退で終わっている事なんだから。
そう伝えると、メイドさんたち全員から典雅な一礼。
快気した後、姫の事を知れば侯爵がどういうリアクションを取るかは不安ではあるが、不安を生じさせないために俺たちが頑張って、メイドさん達をフォローしてあげよう。
一礼に軽く手を上げて返礼し、
「本筋に戻しましょう」
クロウス達の襲撃で話が中断したからな。その話をきちんと聞きたい。
「姫の呪いを解く方法ですが――」
「その方法とは?」
「この極東の地より海原へと出て、遙か南西に位置する大陸。人々が魔大陸と呼称する、我々魔族の生まれたレティアラ大陸に、解決策となる可能性があります」
うん……。
魔大陸……ね。なんか嫌な予感……。
「勇者様一行には、レティアラ大陸に行ってもらいたいのです」
「ちょっと待ってコトネさん」
「仰りたいことは理解できます」
だよね。いまだ人類の反撃も整っていない状況で、俺たちだけでレティアラ大陸こと魔大陸に行くってさ……。
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