PHASE-970【次の日の何とも言えない恥ずかしさ……】
「でもいいんでしょうかね。代々伝わる紋を変えても……」
真っ当な抵抗をさせていだく。
現公爵として!
「良いに決まっているだろう。変革は大事。特に現状のミルド領の民の心を掴むためには、威厳も大事だが慈愛も大事だ。人々を守る存在である勇者。つまりは慈愛の存在が新たなる領主なのだからな。旗も威厳よりも慈愛を主張させるべきだ」
「流石は先代殿、よく分かっていらっしゃいます」
「そうだろう」
ベルに褒められればいい歳こいて破顔ですわ……。
孫娘というポジションと、美人に褒められるという両方の喜びから、爺様は破顔ですわ……。
「では見てくれ」
腕にかけていた布を両手に持てば、それに合わせてスティーブンスやメイドさん達が動き出し、布を広げていく。
長方形の黄緑カラーの布の正体はもちろん旗。それが俺の目の前で広がる……。
――……もうね……、溜め息しか出ないよ……。
何なの? 皆してその笑みは……。
なんで爺様は自信を持って俺に旗を見せるの。
どうだ! と言わんばかりの笑顔だね。
それに続けとばかりにスティーブンスとメイドさん達も、ノリノリで旗の四隅をパタパタと振ってはためかせている。
「おお!」
「おお……」
同音の声。
前者はベル。後者は俺……。
ベルのは喜び。俺のは呆れからのもの……。
黄緑の旗には雄々しかった真紅の大熊紋ではなく、クリクリお目々が目を引く白い子グマが、口元に右手を当てている愛らしいデザイン。
背後の壁の公爵旗と目の前のを何度も見比べる為に忙しく首を振る俺。
「素晴らしい!」
どこが? と、危なく口から出そうになってしまった。
ポンコツモードのベルさんは、これを素晴らしいと称賛。
耳にする爺様やスティーブンス達は喜んでいる。
爺様も大概だけど、他の面子も大概だな。
駄目だコイツ等……。何とかしないと……。
もしかしてあれかな? カリオネルの馬鹿を排除した事で、俺達に対する評価が過大なものになっているのかな?
だから俺達が――というかベルが変な事を言い出してもそれは正しい事だと緩めの対応になっているんじゃないの。
公爵家とそれに関係を持つ者達の判断、知力平均値が大幅に下がってるんじゃないだろうか?
俺TUEEEEの主人公が決めたあり得ない政策でも、全て正しいと思い込んでいる王侯貴族みたいになっていないか?
俺は声を大にしてそんな王侯貴族に言いたい。
自分のマインドを信じろ! と。 お宅等が今まで国を維持してきた政策を信じろ! と。
「どうだトール」
じゃないと、俺の目の前の残念な人達と肩を並べることになる。
どうだトール……じゃねえよ。
なんて笑顔で問うてくるんだよ。可愛すぎるだろ。普段の凛とした姿とギャップがありすぎて思わず好きだ! と、大音声で発しそうになったわ。
「いや~……」
「何が気に入らないのだ」
何が気に入らないって? 目の前の新たな公爵旗になりそうな旗にだよ!
――……と、はっきりと口には出したいのだが、ベルの反感を買うのが嫌だから――という事で言えないというのではなく、この執務室で俺を除く皆さんのノリノリな空気を悪くしたくないという忖度からだよ。
なんでこんなに喜んでるのかな……。
これさ、今は上がったテンションでそういった満足感に包まれているけども、次の日にこの公爵旗を目にした時、貴方方はどうなるんでしょうね。
ゲーム、漫画やアニメが好きな人なら一度は経験した事があるかもしれないが――、かくいう俺もその一人だけども。
普段、絵なんて描かないのに、どストライクの好きなキャラが現れたら、本腰入れてイラストに挑戦し、高いテンションを維持して一、二時間くらいかけて描き終え、力作を目にして上手く描けた! と、自画自賛の大満足という経験。
俺の場合、もしかしたらイラストレーターとかになれるんじゃないの? って勘違いまで芽生えたりしたもんだ。
だが次の日、突如として
机に置かれたその絵を見た瞬間、あまりにも下手すぎて恥ずかしさに襲われるという経験。
ベル以外、間違いなくそれに似た感情に襲われると思うんだけどね。
翌日には赤面ルート待ったなしだな。
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