PHASE-757【拒否】

「じゃあこの首は私が弔ってあげましょう」


「……ちょっと待て」


「何かしら?」


「本当に弔うだけか?」


「無念が残っているのは伝わってくるもの。私なりの弔いをしようかと思うのだけれど」

 流石はアンデッドでありネクロマンサーのアルトラリッチ様だ。

 間違いなく自分の手駒にしようとしている。


「死者を強制的にってことじゃないだろうな」


「ちゃんと交渉するわよ。私が無理強いをしないのは分かっているでしょ」


「まあね」

 以前の地下施設の戦いでは、エルダースケルトン達が主であるリンに対して具申だけして、指示を聞き入れることもなく消えていったからな。


「まあ、復讐はともかくとして、その愚者に対して一発は殴らせてあげたいじゃない」


「そりゃそうだ」

 もし本人が望むなら、リンは力を貸してやるということだった。

 やはり優しいな。

 声に出すと照れるのでやめておく。


「しかし、カリオネルはどうして愚かしい行動を選択するのか。こちらに対して執拗に難癖をつけてくる。そこまでして王になりたいのだろうか」


「小器の者ほど大きいものを欲するのでしょうな」


「が、欲望を受け入れるだけの器がないのだから、その欲望は当然溢れ出す。溢れれば考えも無しに行動し、溢れる分だけ厄災をまき散らしていくといったところでしょう」


「然り。流石はエンドリュー侯」

 王様と伯爵。侯爵が顔を見合わせながら語り合い、その後、王様は家臣団を見渡す。

 皆さん声には出さないけども、ゆっくりと首肯。

 すなわち、


「会談は会談ではなかった。そして眼前のこの愚行。カリオネルは戦いを望むのだろう。ならばこちらもそのように動かねばなるまい」


「「「「おお!」」」」

 家臣団が吠える。

 誰よりも伯爵の声が大きかった。

 端から先生は戦いを考えていたみたいだし、結果として先生の思惑に皆が乗ったって事だろうね。


「是非もなし。ならば我々の力を見せてやろう」


「王よ。訂正をお許しください。圧倒的な力でございます」


「そうだなエンドリュー。我らには勇者だけでなく、太祖の時代の英雄であるリン様もおられる。それに加えてこの王都に集ってくれた英傑たちと立ち向かえば、北の者どころか魔王軍とも戦える。使者よ、我々はカリオネルの要望を受け入れる事は出来ない。よって叔父であり公爵、ミルド領主ランスレン・パーシー・ゼハートに対して、宣戦を布告する事を伝えてもらえぬかな」


「お断りいたします」


「ん?」

 即答ですっぱりと断ったことで、王様も俺たちも首を傾げる。

 なんとも気持ちのいいくらいの拒否だった。

 首を傾げたまま、王様がなぜかと問えば、


「もう……戻りたくはありません」

 片膝をついた姿勢から倒れ込むように泣き崩れる。

 どのみち戻ったところでミランドと同じ運命になってしまう可能性もある。

 そもそもがあのような者の下で働くことも限界だったと吐露する。

 幸いにも三十を過ぎても独身。

 両親も早くに他界したということで、失うものはない。

 独り身だからこそ老後の蓄えも考えて、賄賂も受け取っていたわけだ。


「そちらの御仁が言うように、ミランド殿は見せしめにされましたが。実際は……」

 言葉を途中で止めゲッコーさんを見るロイドル。

 何かを悟ったようで、ゲッコーさんが口を開く。


「――そうか。となれば番兵をしていた四人もか」


「はい……」

 ミランドと一緒になって俺たちを要塞から出してくれた面子も同様に処刑され、麓にて晒し首。埋葬も許されないということだった。

 反吐しか出ねえよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る