PHASE-1180【安堵に浸れる幸せ】

 やれやれだよ……。


「まあ、なんとか退けることが出来たんでいいですけど」


「大したものだな」


「卑怯な手を使いましたけどね」


「そこを確認していないから何とも言えないが、デミタスを相手にして一対一で対処したのならトールの力は本物だ」

 伝説の兵士のお墨付きってなると、俺にも箔がつくってもんだけども……。


「やっぱりもう少し早く助けに来てほしかったですよ」


「トールはそれが出来るのにやらなかったじゃないか」

 本当にピンチならプレイギアから自分たちを召喚すればよかっただけだろうとの返しに、


「相手の挑発に乗ってやめたんですよ」


「ではなくて、自分の矜持がそれをさせなかったんだろう。それで撃退してるんだ。お前の実力は本物だな」

 最高の称賛だね。


「ありがとうございます。それで外周防衛をしていたエルフさん達は?」


「皆、無事だぞ」

 何が起こったのかは、この発言で何となくだが理解した。

 デミタスとの戦闘時、防御壁側から聞こえた大気を劈くような音と爆発音は、ゲッコーさんがレールガンを使用したのが原因だろう。

 使用を問えば、はたして正にだった。

 発射音は一度だけ。

 アイアンゴーレムの中でも最高高度だという黒鉄であっても、一撃で倒すことが出来るレールガンの威力は流石だ。


「それで、ゲッコーさんがデミタスの使いってわけじゃないですよね?」


「なんの使いだ?」


「いや、デミタスが言い残したんですけどね――」

 リンファさんの場所まで誘導する存在のことを説明。


「そうか――当然だが俺じゃない。別の使いが来るとなると、警戒は怠らないようにしないとな」

 俺が仰臥の姿勢のままでってのもあるからか、ゲッコーさん、しっかりと俺の側に来て守りの姿勢を取ってくれる。

 MASADAを宙空から取り出して装備。


「さて、使いというのは多分――」

 言い終える前に音も無く樹上から着地してきたのは――一頭のミストウルフ。

 敵対行動を感じなかったのか、ゲッコーさんはMASADAを構えることはしない。


「なるほどね。この場から撤退してもミストウルフの支配はしっかりと出来ているようで」


「狼だからな。群れのリーダーとして自分たちよりも強い存在にはしっかりと従うようになっているようだ」


「そのようですね。ゲッコーさん、俺はこんな状態なんでお願いしてもいいですかね」


「任せておけ。しばらくすればここにエルフの部隊も来てくれる。運んでもらえ」

 と言って、ゲッコーさんが動き出せば、それを察してミストウルフがゲッコーさんの先頭に立って走り出す。


 ――……デミタスを撃退したからって事で俺の実力を評価してくれたのはいいですけども……。


「せめて部隊が到着するまではここで俺を守ってくれてても良かったんですけどね……」

 すでに見えなくなった背中に向かって独り言ちる。

 だって、俺の周囲にいるゴブリン達は、やばいと思ったら気持ちのいいくらいの逃げっぷりで俺を置いていくからね……。

 臆病なゴブリン達がこの辺を生活圏にしているくらいなんだから、この辺りに脅威と呼べる存在はいないんだろうけど。


 ――ゲッコーさんがいなくなって直ぐ、俺はエルフの部隊に無事に救助された。

 偽リンファさんことデミタスとの戦闘時に馳せ参じてくれたタトーラスさんが俺を背負い、防御壁の内側まで運んでくれた。

 勇者の協力者ということから、ゴブリン達の入国も特別に許される事になった。


 ――――。


「うぃ~」

 冷たいエードを飲めば落ち着くというもの。

 気だるさはまだ払拭できないけども、デミタスとの戦いを終えてようやく心の底からの安堵感に浸ることが出来る。


 だって――ね~。


「ゲッコー殿から話を聞いた。見事だったようだな」

 現在、ルミナングスさんの屋敷。

 一息入れる広間では、最強の存在であるベルが俺の側にいてくれる。

 何があっても現在の俺に危機はない。


「まだまだだよ。相手が相手だったとはいえ、卑怯な手を使ってしまったっていう思いが強いからね」


「いや、それでもトールが一人で対応し、且つ難敵を撤退させたことが素晴らしい」


「ありがとう」

 俺たちが出会った中で火龍と地龍を除けば、難敵の中の難敵であったデミタス。

 それを一人で退けることが出来たことで、ベルの評価が非常に高いものとなっていた。

 これに相応して好感度も上がっていけばいいんだけども――、


「これからの成長にも期待する」

 といった、部下に向けるような喜びしか見せてくれないんだからな。

 この辺は本当にブレないっすね中佐。

 まあ、優しい笑みを向けてもらえるのは嬉しい限りだけど。

 

 何はともあれ――俺は生き残れた!

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