PHASE-1272【ヒュッ!?】
「どういった立ち回り方をしているのかは不明瞭ですが、そこをこちらが上手くあつかえば、存外、
「先生の発言どおりになるなら最高なんですけどね」
でも水龍が囚われている以上は、そういった希望的観測よりも戦うという覚悟を持って当たった方がいいな。
「
「まずはエルウルドの森に行かねば!」
「やる気があるのはいい事だけども、コクリコは留守番だからな」
「い、や、で、す、ね!」
力強く且つ、一文字一文字を強調するようにして拒否してくる。
自身の自伝に活躍を記するためにも率先して行動したいと力説。
「でもさ。次の連中は女とみれば見境なく襲ってくるんだぞ。下半身でしか物事が考えられない奴等なんだぞ」
「何を恐れる事があるのでしょうか。下半身でしか考える事が出来ないのならば、考えるのを止めさせればいいだけ。股間を使い物にならないようにしてやりましょう!」
「女の子が下品な事を言うんじゃありません!」
「そ、そうだぞ……コクリコ」
年上のベルの方が上擦って対応するとは――そういったところもいいですね。
初心なところはポイント高いです。
「とにかく私は同行します。迫ってくるなら相手の下半身に目がけて――」
と、言いながら、手にしたのは腰の部分に備えているミスリルフライパン。
そしてその青白く輝くモノで――、
「――こう!」
「ヒュッ!?」
勢いよく素振りを行う。
裏面を打ち込む――といった素振りではなく、縁部分を目標へと打ち込むように、下方から振り上げるという動作。
その動きを目にした俺は情けない声を漏らしつつ、足を閉じての内股スタイルとなる。
俺の姿は第三者から見たら格好の悪い姿だったろうが、一瞬だったが、俺同様の動作を行ったゲッコーさんの姿を視界に捉えた。
やはり男として通じるものがあるようだ。
しかし困った。
ベル、シャルナ、リンのような強者としてカテゴライズされる連中であっても同行させるのは躊躇するってのにな。
ベルは別の意味でも躊躇するけど。
あまりにも下品な連中が群がろうものなら、感情爆発のままにレイピアを振るうことになるかもしれない。
そうなれば森が浄化の炎に包まれる可能性もある。
敵味方を識別できる不思議な炎ではあるけど、感情が暴発すると敵味方識別がなくなる可能性もある。そうなれば森が焼け野原、禿げ山に変わること間違いなし。
初心故に感情爆発で暴れられるのも困るからな。
「ふむん」
「なんだ。そんなに困るほどの相手か? 話だけ聞くと下品であるとしか耳にしないが」
「強さでいうと一般的なオークとゴブリンの間くらいの連中らしいし、装備も大したことないようだから脅威はそんなにないってギムロンからは教えてもらった」
「一般的なオーク以下か」
そうです。この世界で召喚したばかりのベルが炎の津波で灰燼とした連中以下なんだよ。
「だから今回、ベルは王都にいてくれていいぞ」
「そう言われると、それはそれで寂しいな」
頼られないと寂しくなるってのは誰も一緒だよね。
「王都でゴロ太の護衛をしといてよ」
「分かった!」
う~ん……。力強い即答だったね……。
「だったら俺も酒とポーション作り励んでおけばいいかな?」
「別にゲッコーさんがいなくても生産には問題ないでしょうけどね」
「なんだその言い方は。まるで俺が窓際族みたいじゃないか」
「だって生産は周囲の方々がやっているのであって、ゲッコーさんは酒ばっかり飲んでますからね。朝っぱらから」
「ほう」
ベルに伝えるように発せば、エメラルドグリーンの瞳を鋭くさせる。
周囲は励んでいるのに、そこの代表が仕事もせずに酒を飲んでいるのですね。
――といった感じの発言を目力だけで伝えているようだった。
ベルはベルで愛玩達とばかり楽しんで、外の情報を耳にしなかったというのがあるが、あえてそこは指摘しないでいよう。
そっちのほうがゲッコーさんの風紀を正せそうだからな。
などと思っていれば――、
「よし分かった! 俺はトール達についていこう」
と、言ってくるので、
「あ、いいです」
と、丁重にお断り。
「ぬん!?」
お、伝説の兵士がおもしろいリアクションですね。
「今回は圧倒的強者枠はなしで対応したいと思います」
「おお、これも成長か」
「感心してくれるのはとても嬉しいです。でもやばいと思ったらゲッコーさんにベルも遠慮なく召喚させてもらいます。その時点でやばいと判断してもらいたいので、その時は理由を聞く前に脅威の殲滅をお願いします」
「「わかった」」
「じゃあ私もパスで」
「ああ。リンは王都でアンデッドの指揮を頼むよ。王都の防御壁、農耕。木壁の強化はありがたいからな。離れているより近くで指示した方が良いこともあるだろうし」
「近くで指示を出したからって別段ちがいはないけどね。単純に下品なのは相手にしたくないからってのが理由」
「そうだな。情操教育にもよくないからな」
「そゆこと」
今は姿を見せないが近くにいるであろう永遠のお子様であるポルターガイストのオムニガル。
幼女を下半身でしか物事を考えられないような連中と会わせるなんて保護者として嫌だろうからな。
俺だって嫌だもの。
「私は行くよ」
「いいのか?」
「もちろん。私を襲ってこようものなら、コクリコの言うように下品なヤツ等の股間を潰してあげる」
「ヒュッ!?」
――……シャルナってベルみたいに初心なくせに、平然と言えるんだな。
そういったところから冒険者としての逞しさが伝わってくる。
発言を実行してやろうとばかりに、握り拳を作っての右ストレートで風を切る。
矢を射た時の風切り音と比べると重い音。
音からは本気度が伝わってくる。
その証拠に、ここでも俺の足は圧に押し負けたとばかりに内股になってしまった……。
――…………って、この二人。初対面の時に俺の股間を思いっきり殴った二人じゃねえか……。
「この二人の言動――すこぶる説得力がある」
「「?」」
俺から男の喜びを奪いそうな強烈な一撃を見舞った二人は、俺の発言の意味を理解してはいなかったようだ。
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