PHASE-471【馬鹿にローライフ生活をおくらせたい】

 だがしかし、ファイヤーボールが効いたからといって、行動は許されることではない。


「あの馬鹿は! 隠密行動ってのを理解していないのか!」


「まあ、自然の中での弱肉強食は日常茶飯なので、このくらいの騒ぎなら」

 フォローをするランシェルの優しさは流石だが、これは見過ごせないミスだ。


 合流してからの俺の第一声は――、


「お前まじでこのパーティーから追放してやるからな!」

【素敵で最高な勇者パーティーを追放されたので、なんちゃらウィザードは惨めなローライフ生活をおくる】って、タイトルまでは完成した。

 後は実際に追い出すだけ。

 でもって、落ちぶれたお前を題材にして、全くもって救いのない悲惨なライトノベル書いてやろうか!


「これは本当によくない」


「悪手だぞ」

 ゲッコーさんとベルからも中々に怖い語調で発言をいただいた。

 流石にコクリコも二人の発する怒りを感じ取ったようで、調子に乗りすぎたと真顔になっている。

 仕方がないというべきなのか、マンティコアまで二人の怒りを感じ取ったようで、恐れを抱いているようだ。


「ガァァァァァァァアァァ」

 鼓膜がぶっ壊れそうなほどのバインドボイスは、追い詰められた獣の咆哮。

 まだまともに戦いも始まっていないけども、二人の怒りの感情を受けて、すでに及び腰。

 それでも後退しないのは獣のそれとは違う。

 獣ならば、強い存在と認識すれば逃げるはず。

 だが逃げない。

 蠍のような尻尾を大きく振り回せば、先端から透明な液体が一帯に飛び散る。

 イグニースを発動せず俺は回避。


「シャルナ」


「了解」

 即座に考えを理解したシャルナがアッパーテンペストを発動。

 発生した限定的暴風で、飛び散る液体を放出した存在に跳ね返す。

 四足で素速く避け、液体は下生えや木々に付着。

 シュゥゥゥゥっという音と共に、枝に草、幹が瞬く間に朽ちる。


「まあ当然、毒だよな」

 尻尾の形状からしてそれ以外は考えられなかった。

 イグニースで防げば、亀甲を模した炎の盾が毒を蒸発させて、毒霧に変えてしまうおそれがあるからな。

 腹部を見れば焦げた後がある。あそこに馬鹿の魔法が当たったようだな。


「逃げずに挑むとなれば、仕方ないよな」

 凶暴とはいえ、ファイヤーボールが通用する相手だからな。この面子ならまず負けない。

 終わった後はまな板はガチで説教だ。

 

 まな板を反面教師として、派手な戦いは避けたい。

 極力、魔法を使用しないで、銃も使用するならサプレッサーだな。

 言わずもがな、ゲッコーさんはサプレッサー装備。


「コクリコ。お前は下がれ」

 無駄にうるさく魔法を乱発されてもかなわんからな。


「いえ、ここは私の新たな――――」

 

「いい加減にしろ」

 ベルの冷たい怒気がコクリコに突き刺されば、語るのを中断して即座に後方に移動した。

 まったく、俺が言っているうちに黙って下がっていれば、ベルの怒りを上乗せさせなくてよかったのにな。

 お説教タイムは覚悟しとくんだな。

 

「ゴガァァ!」


「おっと、ここでこそイグニース」

 巨体が宙に舞い、強靱な前脚が迫る。

 振り下ろしてくるというより、全体重を前脚に乗せるようにしてのしかかってくるって感じだ。


「ガァァァ!?」

 でも残念。さっきは毒を回避したけど、今回は体を使っての攻撃だからな。

 ダメージを受けるのはお前だ。

 イグニースの熱にマンティコアの表情が歪む。

 一気に離れるが、前脚からはぶすぶすと煙があがり、灰色からなる毛が焼け、独特な臭いが一帯に充満する。

 バックステップしたところに、逃がさないとばかりに俺が追撃にでる。

 ラピッドによる敏捷強化に、インクリーズによる肉体強化。

 軽く跳躍してからの――――、


「スマッシュ!」

 一回、言ってみたかった。

 右拳による渾身のストレート。

 拳というより、火龍の籠手で思いっ切り鼻っ面を殴るといった感じ。


「ギュゥゥゥゥ……」

 強い鳴き声ではなくなった。

 鼻血を噴き出し、頭を激しく振って大きく後退。

 

 肩越しに後ろを見れば、チート二人は安定の動かないスタイル。

 俺だけで倒せると判断したんだろう。

 大きさにしてアジア象くらいはありそうな、大型のモンスターを俺一人で。

 そんな大型モンスターに対して、無手で対応できるようになっている事に、俺自身が驚いている。

 

 ホブゴブリンのバロニアを投げ飛ばした時と同じ驚きが、体を駆け巡った。

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