PHASE-519【引き籠もり終了のお時間です】

 ――……瀑布の流れが清水のように緩やかになり、程なくして終息。


「ふ~。凄い音だった」

 良かった。無事だった。

 操縦桿から手を放したからか、いつもの落ち着いた姿に戻っているようだ。

 煙草を咥えて戦車から出て来るところは、映画ワンシーンのようで格好いい。

 紫煙を燻らせながら、AA-12 を携行し、大きく崩れた岩龍の状態を窺っている。

 俺たちよりも至近にいるから、反撃に注意してもらいたい。まあ、場数を踏んでる人物に対しては無用な心配だろうけど。


 直ぐさま水上をフロートで滑るようにして、こちらに移動してくる。

 先ほどの大魔法で更に水かさが増し、現在この要塞の地下施設は、地底湖へと変貌した。

 

「ゲッコーさん」


「あの岩の着ぐるみは限界だな」

 やはり普段通りに戻っているな。

 ゲーム内でも二足歩行の戦略兵器を操縦する時、無駄にテンションが高かった記憶もあるけど、生で見ると落差がありすぎる。

 

 ――ゲッコーさんの確認に間違いはないようで、水に浸かった半壊状の岩龍には動きが見られない。


『ゴォォォォ……』

 弱々しく威嚇はしてくるけども、それだけだ。だけどそれは表面上のことだ。

 バキメキバキと音を立てて、岩のスタチュー全体に放射状の亀裂が走る。


「出るぞ!」

 AA-12の銃口を崩壊の音を響かせる方向へと向ける。

 デスベアラーにも見舞った単発弾を使用すると考えられる。

 岩龍の中から殻を勢いよく破るようにして、破片と共に大きな影が飛び出してくる。

 飛んでくる破片を籠手で防げば、カンカンと小気味のいい音が響く。

 威力的に大した事はないので、リズベッドやシャルナが障壁を出す事はなかった。

 

「バロロロロロ」


「その鳴き声が聞きたかったぞ」

 先ほどまではガァァァァァァとかゴォォォォォだったからな。

 その独特な鳴き声の方が愛嬌があるってもんだ。


「終局だ」

 自信を持ってそう発する。

 弱っているのか四つ足がプルプルと震えている。


「ブロロロロロ」

 発言が気に入らなかったのか、地龍は俺へと向かって跳躍。

 弱っているが、体を撓らせた素晴らしい跳躍だった。


「よっしゃ来いや!」

 迎撃とばかりに残火を構えれば、俺の一歩手前に地龍は着地する。

 大きな水柱が上がり、俺の視界を妨げる戦法を披露してくる。


「おら!」

 横薙ぎにて水柱を立てば、斬撃を躱すように軽やかに後方移動。

 四本の足を水に浸けた地龍の動きは悪いものかと思ったが、そんなことはなく、弱点である水であっても、行水程度なら心地いいといったところのようだ。


 水中から岩の槍が飛び出てくるのを確認して、俺も後方移動。

 水中であっても大地は地龍に従うようで、地龍が駆ければ俺に鋭利な先端を突き付けるように襲いかかってくる。


「まだまだ元気だ」

 AA-12から単発弾が発射される。

 デスベアラーのように鉱物で出来た体ではないけども、そこは聖龍の一柱、鱗からなる体は単発弾を通すことはない。

 ダメージは無くても煩わしいとは思うようで、ゲッコーさんの足元からも、鋭角な岩の槍が生えてくる。

 俺が当たらないわけだから、ゲッコーさんをそれで仕留める事は出来ない。


「フリーズランサー」

 と、ここでシャルナが水ではないけど氷結魔法で牽制。

 当たるが当然、鱗に対して突き立つ事はなく、砕けた氷がキラキラと美しく舞う。


「ブロロロ!」

 ヘイト効果はあるようで、苛立ちを覚えた地龍は、今度はシャルナへと攻撃を仕掛ける。

 タゲ取りが容易だな。


「隙だらけです。ライトニングスネーク」

 足を水に浸けているところに、コクリコの魔法が炸裂。

 バリバリとけたたましい雷撃音に合わせて、体の濡れた地龍の姿勢が一瞬だったが硬直していた。

 四大聖龍リゾーマタドラゴンといえど、弱れば中位魔法でも効果が見込めるようだ。


 次から次へと攻撃が見舞われることで、次々にターゲットを変更する忙しい地龍。

 コクリコを追いかけ回す地龍は、今までの苛立ちが溜まりに溜まったのか、槍ではなく柱サイズのものを大地から打ち出しての攻撃。


 意地でも仕留めてやるとばかりに、ブルルル――と、鼻息も荒い。

 一点集中、攻撃のパターン化。

 視野の狭い行動からして、相当、躍起になっているご様子。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る