PHASE-79【正式に招待】

「――――ふぅ」

 倒木に腰かける。

 血の巡りが良くなるまでに、二十分はかかってしまった。

 股間を殴られて、血の巡りが悪くなったからな。


「嘘でしょう。まさかこの人が本当に勇者……」

 二人に説明されて、ようやく信じてくれたけども、イメージから完全にかけ離れていたようだ。

 天から降臨した俺という存在は、見目麗しく、強いイケメン様だと思っていたご様子。

 期待していたのと違うからなのか、俺を侮蔑の目で見てきやがる。

 本当にむかつく! こっちだってイケメンに生まれたかったわ!


「こそどろの分際で」

 ぼそっと言えば、


「ああ! 何ですか!」

 なんて高圧的なんだ。語気でお里が分かるってもんだ。両親は間違いなくヤンキー崩れだね。

 ああ、やだやだ。不良は嫌~い。


「その目は何です。はっきり言えばいいでしょう」

 ブーメラン発言だな。

 お前だって何も言わずに、俺を侮蔑の目で見てきただろうに。

 無視してたら腹立ったのか、今にも噛みついてきそうだよ。あ~面倒くさい。

 可愛くても、これだと全くもって俺のリビドーには響かないね。

 だって、まな板じゃないですか。ベルに少し分けてもらえば。


「こんなのが勇者とは!」


「うるせえぞ、こそどろ。勝手に人の家に入って食い物を盗み食いして、食器も割って。火まで放ちやがって。火事になったらどうすんだ!」

 ちびっ子にこれ以上、負けるわけにはいかないからな。一気に畳み掛けてやる。

 あるだけの非を利用して。


「その事はお詫びします。すみませんでした。森で、しかもオークが出没する地帯なので奴らの根城かと」

 反省は出来るのか。殊勝な心がけだ。

 が、しかし、


「お前さ、考えてもみろよ。あんな素敵な家がオークの住処なわけないだろ。それとも何? お前って普段から穴蔵に住んでるの? だから住居に対する認識が低いの? もしオークの住処だったとしよう、お前、オークが食ってる物を何の抵抗もなく食べられるとか、得体の知れない物とか考えなかったのかよ! あり得ないね゛ふぅ!?」


「得体の知れない――――物だと」

 いや違うよ! ベルの料理は最高だったさ。


「例えだから。ベルだって、いきなり知らない地で、知らない物を簡単に口には運ばないだろう」


「ああ、そうだな。小川の水をガブガブと飲むような愚かしい行動はしない」

 ぐぬぅぅぅぅ……。ぬかしよる。


「しかし、オークの食事と例えられるとは」


「それは、コイツがオークの根城とか言うから」

 だから、そんなにエメラルドグリーンの瞳を危険に煌めかせないで。


「あの、コイツとか言わないでもらえます」


「じゃあ、なんて言うんだよ」


「私はコクリコ・シュレンテッド。偉大なるロードウィザードです!」

 え、なに? そのポージング。格好いいと思ってるの?

 それによ――、


「さっきはハイウィザードって言ってたよな! 位を上げるな!」

 コロコロ変わりやがって。


「勇者をただの一撃で倒せたのですから、最上位のウィザードを名乗っても問題ないでしょう。それとも、勇者様はそこいらのザコモンスターよりザコなのでしょうか? ならば私も、ロードを名乗ることはやめましょう」

 こいつ……。駆け引きを知ってやがる!

 ザコモンスター以下のあつかいは嫌だ。というか、ロードどころか、ハイもウィザードの頭から取れよな。




「このソファー、座り心地がいいですね」

 きちんと話をする為に、家の中に招待してやれば、お子様らしくソファーで跳ねて喜んでいる。

 明るい室内でコクリコをちゃんと見れば、文句なしの美少女である。

 だけども、フードは土埃が目立つ。


「身だしなみは大事だぞ」


「王都を目指して旅をしていましたからね。一応は水浴びはしてましたよ」

 臭わないのは救いだな。その辺は女子として、コクリコも気にしているようだ。


「湯をためておいたぞ」

 出来た女である。

 ベルの奴、もう現代の風呂についてる機能を完璧に扱えるようになってる。

 ボタン一つ押せば、設定できるなんてのはベルの時代にはないのに。

 リアルな俺んちにもこんな機能はないけど。羨ましきかなギャルゲー主人公。


「入浴がすんだら、ここへ戻ってくるといい。食事を用意しておく。あと洗濯もしておこう。バスローブで過ごしてくれ」

 本当に出来た女だ。いつでも嫁に行けるぞ。というか、俺のとこに来いよ。って、格好良く言いたいもんだ。

 風呂に食事と、嬉しい発言を耳にしてソファーから立ち上がれば、そそくさと案内された風呂場へ行くちびっ子。

 その名はコクリコ。

 中二病を煩っている女子――――。

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