PHASE-458【アイダホって戦艦もあるけどさ】
――――男の娘メイドを隣に座らせて、二日をかけて侯爵領であるバランドより出る。
俺が召喚したギャルゲー主人公の家を目にして、ランシェルが女の子のような笑顔で喜んでいた。
ベルと二人で素晴らしい食事も作ってくれたし、本当に女の子じゃないのが悔やまれてならない二日間だった。
「潮の香りがしてきたな」
草原を走るハンヴィーから見えるのは海だ。
ここまで来ると、人の手が入った街道なんてのはない。自然に覆われた世界だ。
道は悪くなったが、ハンヴィーなら問題なく走破出来た。
「助かるぜ青空」
侯爵領から出てもずっと空は青く、瘴気はない。
おかげでガスマスクを使用しなくてよかったコクリコは、車酔いを回避できた。
大陸を南北にのびるカンクトス山脈のおかげで、この辺りも瘴気の影響を避けることが出来ているんだな。
乗車中に野生のモンスターにも出くわしたけど、戦闘になることはなかった。
むしろ見たこともない鉄の箱が走っている姿に、驚いて逃げていた。
そんな感じで――――、
「海だ」
なんと素敵な透明度。
女性陣には是非とも水着姿になっていただきたいものだ。
さらさらの白い砂浜。まるで沖縄やハワイみたいじゃないか。
――――どっちも行ったことはないけど。
この青空は魔大陸まで続くんだろうな。
コトネさんも言っていたけど、人類が住む大陸に対して瘴気で攻撃をしているから、魔大陸の瘴気は少ない。
だが……、
「ラッテンバウル要塞に近づけば、こんな青空がなくなって、紫色の世界に変貌するわけだ」
いや、紫色を通り越して、どす黒い瘴気に覆われているんだろうな。
「そのような風景をトール様なら、この青空のように変えてくださると信じています」
ランシェルは好天に負けないくらいの晴れやかな笑顔で、俺を激励してくれる。
女の子じゃないのが本当に悔やまれる……。
要塞周辺以外は綺麗な空気なんだろうが、現在はスライムが魔王となって統治しているからな。
秩序がなくなり、荒廃した世界なんじゃないだろうか。
モヒカン頭でヒャッハーしている連中が出てこない事を祈ろう。
とりあえずは目に入ったモンスターや亜人は敵と判断するべきだな。
人のいない大陸。
味方はここにいる面子のみ。
ここで滾ることが出来れば、真の勇者なんだろな。
俺にはまだ無理。
「ところで、我々はどうやって海を渡るのでしょうか?」
ランシェルの素朴な質問。
魔大陸までの道のりは遠い。海中には強大なモンスターも存在するから非常に危険な航海となるそうだ。
質問に対して、魔族達はどうやってこの大陸に来たのかと、俺は質問で返す。
魔族の魔大陸からカルディア大陸への移動方法は、
海と空の協力で、
表だって派閥争いをすれば進捗に遅れが生じる。そうなれば現魔王であるショゴスの怒りを買うことになるから、協力しあうのは当然といえば当然。
魔族には移動手段があっても、それらがない人類サイドが如何にしてこの海を移動するかを知りたがるランシェル。
「まったくもって問題ありません!」
なぜにコクリコが得意げなのだろうか。
しかも、「さあ、見せてあげるのです!」って、俺を従者みたいに扱ってくるよ。
ま、初めて見る二人に驚いてもらおうか。
「ミズーリ」
プレイギアを海へと向ける。
巨大な輝きが発生すれば、俺たちの視界から海の風景を奪う。
「「うわ!?」」
この大きな輝きになれていないシャルナとランシェルが、予想通り驚いた声を上げる。
手で顔を覆いながらも輝きを眺める二人。
俺はこの光に慣れてきたのか、二人のように手で覆うことはなく、目を細める程度で見る事が出来るようになっていた。
――――大きな輝きが終息し、眼界へと現れるのは、270メートルを超える鋼鉄の艦船。
「これが……トール様の奇跡」
「そう、これがアイダホきゅうのミズーリです!」
「アイオワだ! なんで州が変わってんだよ。うろ覚えの知識で、普通に存在する知りもしない州を口にするとか、どんだけ器用な言い間違いだ!」
得意げなコクリコにツッコミを入れる俺の横でゲッコーさんが、29番目から43番目になったな。と、アメリカ人でも分かりにくい事を言っている。
「ねえ、何なのコレ。鉄だよね? なんでこんな巨大な鉄が浮くの? 鉄の中に魔法でも封じているの?」
コクリコが初めてミズーリを目にした時のようなリアクションのシャルナ。
ハイエルフは初めて見る巨大な鉄の塊に、驚きというより、恐怖に支配された表情を浮かべていた。
ティーガー1を鉄の象と称して驚いていたが、サイズが違いすぎるから怖がっている。
得意げだったコクリコだが、どうやって浮いているのかというシャルナの質問には、当然ながら答えることが出来ないので、明後日の方向を見て、シャルナと目を合わせないように努力していた。
メッキが即効で剥がれた瞬間である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます