PHASE-1643【ド正論よね……】

「中に入っても?」


「エマエスが案内役なら問題ないが、交渉まで出来ればいいな。新米さん」

 と、エマエスと仲のいい方の門番が笑顔で言ってくれれば、


「難しいだろうな」

 と、小馬鹿にしてきた方。

 でもまあ、通る事は許された。


 ――エマエスと共に赤煉瓦からなる防御壁を通過。

 防御壁内には全く同じ形をした建物が何件も並んでいた。


「初めてだと迷いそうですね」


「そういった意味合いもあるんですよ」

 侵入者が忍び込んだ時、狙った建物を分かりにくくする為のものでもあるそうだ。

 建物の出入り口には、門番と同じ装備の立哨が二人一組で守っている。

 後ろを振り向き見上げれば、壁上には弓を持った私兵が等間隔で配置。

 物々しいったらないな。


「これは……、交渉が難航しそうですよオルトさん」


「かもしれませんね」

 防御壁の内側は明らかにピリついている。

 ちょっとでもおかしな動きをすれば、直ぐさま駆け寄ってくるような感じだな。


「普段からこんなにも物々しいんですか?」


「いえ、ここまではないですよ」

 てことは、ここ最近ってことになるな。

 そうなると当てはまるのは――ゴロ太か。

 ミルモンの能力でここにいるのは分かっている。そして最近になって厳重になったとなれば、ゴロ太を守る為ってのがしっくりとくる。


 見通した時、ゴロ太は楽しげだったとミルモンは言っていたけども――。

 ふむん。ゴロ太にとってこの地は特別なのだろうか?

 生まれてすぐにワックさんが世話をしているから、この地が特別とは考えられないけどな。


「そこをどいた! 新米冒険者!」

 道の真ん中に立っていれば、立哨から注意。

 後ろからは大きな馬車。

 農耕馬のような馬が引く六頭立てとは豪快だな。

 大きな木製のコンテナを引く馬車が建物の中へと入っていく。


「なにが入ってんですかね?」


「そんなもんはお前が知る事じゃねえよ」

 木で鼻を括る対応。

 新米という事で完全に下に見られているな。

 なめられている分、そこが隙になるからありがたくもあるけど。


「自分たちも行きましょう」

 エマエスの誘導で真っ直ぐ進む。

 左を見ても右を見ても同じ造りの建物ばかり。

 上空から見れば碁盤目のようになってんだろうな。

 

「自分に出来るのはここまでです」

 と、案内された場所には列を成す人々。

 ここからはこの列に並んで自ら交渉してくださいとの事。


「ここで待っています」


「ありがとうございます」


「本当にこの程度のことであれだけの報酬を?」


「気にしないでください。後払い分も宿に戻ったら支払うので」


「別に催促したつもりではありませんので……」

 そう言うと、列から外れた位置で俺を待ってくれる。

 やり取りの最中にも、俺の後ろに人が並ぶ。

 俺の後ろで俺を半眼で見てくるのは、見るからに金のかかった服に金ピカな装飾品を身につけた成金風のおっさん。

 軽く会釈をすれば、鼻息で返してくる。

 そのおっさんの更に後ろでは、華美さはないが良い身なりのご老人が、柔和な笑みにて会釈を返してくれた。

 

 それにしても――、


 前に並ぶ連中に、次から次へと後ろへと並んでくる連中。

 皆してお高い身なり。

 俺だけが浮いている。

 だからこそ後ろのおっさんは、赤貧冒険者がこんな列に並ぶな! と、心底で思ってんだろうな。

 絶対に譲らないけどね。

 というか、こんな金持ち連中でも列に並ばないといけないとはね。

 個室で応対ってのはないのだろうか?

 こんなにたくさんの建物があるんだから、来客用の建物くらいあってもいいだろうに。


 ――などと考えていれば、もうすぐ俺の順番。

 

 なんか久しぶりに列に並んだな。

 期待の新作。大人気作品待望の続編。それらのゲームが発売された時に行列に並んでいた頃の自分を思い出してしまう。

 そういった経験もしているからか、小一時間くらい待たされたけどもノンストレス。


「こんにちは」


「……」

 俺の順番になり、挨拶をすればなんと驚きの無反応。

 俺の前の人には普通に接していたようだったけども、なんで俺には無反応?


「あの~」


「なんだ。冒険者さんかい?」


「ええ、はい」

 素っ気ないね。

 商売人ならスマイルが大事だと思うんだけど。


「ここは余裕のある方々が来る場所なんだ」


「可能ならばスティミュラントを売ってほしいと思ってまして」


「だから。ここは余裕ある方々が来る場所なの! 明らかに新米でしょ。持ってる金額もたかがしれてるだろう」


「少しくらいは買えるつもりですが」


「少しくらい――ね。だったらわざわざこんな所に来なくても普通に売ってるよ」


「いや、ケースで買おうかと」

 そう返せば、目の前の製造所職員は溜め息。で、後ろからは小馬鹿にした複数の笑いが俺の耳に入ってくる。


「ここに来る方々はケース買いじゃないの。馬車満杯に買うために来てるの」

 ケース程度でここに来るのは君が初めて。弁えた方がいいと付け加えられれば、これまた後ろの金持ち風なおっさん連中から笑われてしまう――柔和な老人を除いて。


「それに新人さんでしょ。だったらまずは場数を踏まないと。こういったアイテムはそれなりになって金に余裕が出てきたら買うんだよ。まずは生き残る為の装備を揃える事に専念するんだね。鎧、盾、剣はまあまあ良いので揃えているみたいだけど、肝心の頭を守るのはどうしたんだい?」


「まだ買ってなくて……」


「まずは残りの防具を買う事に専念するんだね。いっぱしの冒険者になったらまたおいで」


「あ、はい……」

 なんだろう……。

 もの凄く真っ当な事を言われて反論できなかった……。

 

 商品が売れに売れまくって傲慢な態度になるとかでもなく、普通に俺の事を思ってくれて諭してくれる優しい製造所の人だった。

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