PHASE-1521【不思議なアンデッド】
――白目となり、開かれた嘴からは力なく舌が垂れ下がる。
「
「ええ、主を裏切ることなく潔く死を選択する姿には兵士として好感が持てます。そんな存在の命を簡単には奪わないですよ」
ユーリさんもベル同様、ロマンドさんには敬語か。
やはりロマンドさんって、生前はやんごとなき立場だったのかもな。
「嘘だろ……。アドゥサル殿だけでなくアル殿まで……。不意とはいえ拘束されただけ。そこから抜け出せないままに戦闘不能だなんて……」
「もっと驚いてくれていいぞラズヴァート。どうだよ俺の仲間は、とんでもないのが揃っているだろう」
「だからってお前が誇るな! お前の力じゃねえよ」
「そうだよ。俺の力じゃない。でも仲間を誇るのに理由なんかいらないからね。素直な気持ちを言ってもいいだろう。ああそうか。ボッチだからこういった考えになれないんだな」
「このバインドを解け! 今すぐ勇者をぶっ倒してやるからよ!」
「俺にぶっ倒されたからこその今のお前なんだけどな。ここは俺の実力を誇らせてもらおうかな」
「本当にムカつく野郎だよ!」
「本当の事を言われているから頭にくるというものなんでしょうね」
「おうコクリコ。無事か」
術者が戦闘不能になったことでバインドから解放されたコクリコ。
柱に縛られていたことで体が凝り固まっていたのか、ほぐすように肢体を動かす。
拳打に蹴撃のシャドーはキレッキレ。
「本当に後衛か?」
と、ロマンドさんが感心するほどに、しなやかで綺麗な打撃だった。
「トールに再戦をするより私に挑みませんか? 体をほぐしたいですし、何より拘束された恥辱をどうにかして払拭したいので!」
「それはお前の油断だから反省だけしろ」
「言い返せないほどの恥ですよ……」
珍しく殊勝な心がけからくる返事。
拘束されたことを心底、情けないと思っているようだ。
自分が弱点になってしまうという恐れもあっただろうしな。
「今後は独断で突っ走らないことだな」
「可能な限りは!」
快活でいい返事だ。
可能な限りってのは不安が残るけども……。
「高順の所での突撃を思い出したのが失敗でした」
「ああ」
先頭を駆ける中、敵が蹴散らされていくという光景。
アレを思い出せば、コクリコは先頭切って突っ走るよな。
普段もそうだけど。
「後、この地での連戦連勝にて気が大きくなってしまいました……。ガーゴイルが言うべき相手はトールではなく私でしたね」
まあ、なるよな。だって――コクリコだもの。
その部分でもちゃんと反省できるのは偉いぞ。
「女史だけの責任ではない。御せなかった者達にも責任はある」
「はっ! 猛省します!」
ロマンドさんの刺すような語気。
熱のないアンデッド特有なその声音に、同様の姿をしたルインが背筋を伸ばして返事をすれば、残りの面々も同様の姿。
「今は全員が無事だった事を良しとしよう。そして我らが主にこの体たらくを見られなかったことを最上の喜びとしよう。どれほどネチネチとした説教を受けるか分かったものではないからな。我にまで罵詈雑言が飛んできてはかなわん……」
声の調子からして冗談じゃなく、本当にリンからボロックソに言われるんだろうな。
「それで、会話の最中に申し訳ないけども――どうする?」
アル氏を拘束してくれているユーリさんからのこれからの対応を求められる。
――相手が人質をとっての交渉をしてくるんだからこっちもと考えたいけども、敵地にて相手が多くの人質を取るのは有利ではあっても、こっちは多くいればそれだけで動きが悪くなる。
だからラズヴァートだけにしているわけだし。
かといってこれだけの相手を解放すれば相手が有利になる。
実力を見る事はなかったけども、アドゥサルクラスなのは間違いないからな。
――気になったのでプレイギアで調べてみれば――、
「やっぱり以前より高くなってる」
レベルは88とアドゥサルと同じ。
この実力者をおいそれと解放するのはよろしくないな。
でもこれだけの強者を拘束したまま行動するというのも難しい。
「命を奪うかい?」
俺が熟考する表情からユーリさんが提案。
「戦闘不能の者の命を奪うとか考えられないな!」
怒号を飛ばしてくるラズヴァート。
――うん。
「ラズヴァートの言は正しい」
「お?」
「なんで不思議そうな顔で見てくるんだよ。お前と同じ考えだってことだよ」
「お、そうか」
「そうだよ。そもそもこっちは囚われた全員に危害を加えられていなかった。それに対して気を失った存在の命を奪うとなれば、勇者としてだけでなく人としても最低な行為」
「まったくです」
ここにコクリコが続く。
「そんな倒し方で解決してしまえば、囚われてしまった私の名誉を挽回する機会が無くなってしまいます」
「お、そうだな」
「なので目が覚めたら再戦しなければなりません」
「うん。それはやめとけ」
勝てないからな。と、心底で継ぐも、
「次は負けませんよ!」
と、俺の心の呟きを悟ったようでご立腹なコクリコさん。
以前はここに蹴りなんかが入ってきたんだけども、最近はコクリコから蹴りをもらうってのは無くなったな。
それも成長ってことだろう。
「じゃあ、どう対処しようか」
拘束する者からの再度の問い。
そうだな――。
「解放してやりましょうか」
「それでいいのか? 相手が有利になるぞ」
「有利になっても頼りになるロマンドさん達がなんとかしてくれるでしょう?」
そう返せば、
「ここで我々を刺激してくるか。答えは――無論だ!」
なんて力強い返答なんでしょう。
これには無抵抗で人質となっていた面々からも「名誉挽回!」と、気迫のこもった声が上がってくる。
「なんなんだこのアンデッド達は……」
自分が知るような不死の連中とは全くの別物だとラズヴァートは困惑する。
そこそこ一緒に行動してるんだから、いい加減その辺は理解すればいいのに。って言いたいけども、俺も似たような思いだからな。
本当に不思議なアンデッド達である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます