PHASE-1175【トラウマ】
――……やはりと言うべきか……、素晴らしきはゴブリン達の素早い逃げ足だ……。
デミタスが纏う怒気を察知しての動きはたいしたものだった。
このゴブリン達は偵察兵として活躍できそうだな。
自分たちに危険が近づけば直ぐさま撤収するっていうのを上手く活用すれば、欲を出して深入りしない偵察部隊として頼りになりそう。
――……などと考えて、目の前の現実から目を反らそうとする俺。
――……意を決しつつ。
「なんか……ごめん」
素直に謝罪。
敵であり殺されかけた存在であり、この国を傾けようとしていた存在に謝罪をする俺の称号は……勇者…………。
などと思っている最中、俺の横でビュンと極悪な風を切る音。
「ひゅい……」
と、情けない声を漏らしてしまう。
やおら視線を横に向ければ――、フランベルジュが俺の側面で幹に突き刺さっているという光景。
「お前は本当に私を不快にさせる」
「すみません……」
「勇者が簡単に謝るな! 私は敵だぞ!」
じゃあ、
「いきなり剣を突き立てるな!」
「黙れ!」
「はい、すみません……」
――……どうすりゃいいんだよ……。
完全にたちの悪いコメディじゃねえか……。
いや、むしろ酔っ払いのおっさんにからまれているって感じだろうか……。
どう言っても正解にならない理不尽なやつだ。
「あの……言いたくないなら結構です。そろそろお開きに――」
「私がまだ幼かった時だ」
語るんかい……。
童貞の俺だが分かる事もある。コイツ――面倒くせえタイプの女だなってことがな。
ベルに似たタイプだと思ったが……。
どちらかというとセラに似たタイプかもしれない。
相手にしないと闇を纏うヤンデレタイプは嫌だぞ……。
「どうしたの? お前が問うてきたのよ。聞く気はあるのかしら?」
「あ、どうぞ……」
と、返せば、デミタスの幼い頃の話が語られる。
――――魔大陸――レティアラ大陸西部方面の山岳に住んでいた種族の名はフーヤオ。
そのフーヤオがデミタスの種族だそうだ。
デミタスの元々の姿だった狐の姿をした亜人の野狐だけでなく、現在の人の姿をした仙狐などもいたフーヤオ族は、固有能力である変化の術を扱える種族。
フーヤオ族は大地と共に生きるという考えから地龍信仰でもあるそうだ。
戦いの最中に地龍に関しての会話があった時、すんなりと聞き入れたのはデミタスが地龍信仰だったからってことね。
要塞の守りに就いていた理由も、恩人であるデスベアラーに付き従うだけでなく、封じていた地龍を案じていたという事もあったようだ。
――デミタスが幼少の時代、大きな転換期がレティアラ大陸に訪れたという。
リズベッドが魔王の座から追われ、ショゴスが魔王と名乗るようになった時だ。
この時はまだ護衛軍や
そして変身能力を有したフーヤオ族を軍門へと吸収するために、ショゴスの下知により訪れたのが、当時から大軍勢を有していたカルナックだったという。
この時のカルナックは物量に物を言わせ魔大陸の方々に勢力を伸ばしていたということもあり、ショゴスにより交渉役も任されていたそうだ。
当時は協力者という立場だったためか、下知をされた事によりカルナックの機嫌は最悪のものだったということで、フーヤオ族との交渉は最初から高圧的なものだったそうだ。
部下ではなく自らが使わされたことに不快さを抱いていたカルナックの高圧的な言い様は、交渉ではなく脅しそのもの。
傘下に入るよう命令してきたそうだ。
フーヤオ族は固有能力である変化の術だけでなく、ネイコスの扱いにも長けているそうで、ショゴスは戦闘要員としても貴重な一族と位置づけていたようで、是が非でも支配下に置きたかったようだ。
しかしフーヤオ族は俗世に興味がないという事から傘下へとなることに難色を示した。
大陸を統一したいショゴスにとってはあり得ない回答であり、それを理解していたカルナックはそれを許さなかった。
脅しとして族長に力を振るうという事になったが、それでも屈することのなかったフーヤオ族に対し、自らが出向いた事に対してのこの態度に、カルナックの低い沸点は即、到達。
傘下に加わることがないのならば脅威対象と即断即決。
部下たちに集落への攻撃を指示。
フーヤオ族も抵抗はするけども、圧倒的な物量とカルナックとその精鋭の強さには全くもって太刀打ち出来ず、次々と倒されたという。
燃えていく集落や周囲の自然の中で男たちは惨たらしく殺され、女たちは陵辱されて惨殺されていったそうだ……。
幼かった者達も悉くが殺されたという。
幼少のデミタスの目の前で兄弟や友人たちはただ殺されたのではなく、子供ということで軟らかい肉ということから、オーガを中心とした種族によって喰われていった……。
――……聞いてるだけで胸くそが悪くなるし、それを見ていたデミタスにとっては強烈なトラウマになったわけだ……。
その時に植え付けられたトラウマの一つが炎に包まれた集落の光景。
燃え崩れていく故郷が脳裏を過ぎるから、俺の炎に嫌悪と怒りを抱いたわけだな。
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