PHASE-23【潜入】

『――――見張りもちゃんといる』

 暗視機能、レンジファインダー搭載の双眼鏡で確認。

 現在、砦の100メートルくらい手前まで接近している。

 砦には木造の見張り台があり、オークの立哨が周囲を警戒している。

 砦の構造は、峡谷の岩肌をくり抜いて造られたものだ。

 出入り口にあたる丸太で造られた門が、砦への侵攻を妨げる。

 立哨のいる見張り台は、その門に沿って存在している。

 篝火は等間隔に設置され、砦と門付近を明るく照らしている。

 更に門の前には、門より巨大なトロールが、巨大な剣と盾を装備して立っていた。


『妙だな?』


「なにがです?」


『見張りの数が多い』

 ですよね~。

 強すぎるのも問題って事だな――。


「――ベルの王都での活躍が、情報として入っているんでしょうね。こちらが打って出ると考えて、警戒も厳になっているのかもしれません」


『そうか。実際いま攻めてるしな』

 と、余裕ある発言をしつつ、キョロキョロと辺りを見渡している。

 ディスプレイを見続けてたら酔いそうな動きだな……。

  

『壁側は見張りが少ない』

 渓谷をくり抜いて造られた砦は、正面から攻めないと攻略は難しい、だからこそ見張り台の立哨も、門の付近に集中している。

 反面、攻められることはないと考えられているのか、壁側には見張りが少ないようだ。

 目は向けられていないようだけども、ゲッコーさんは見張りを警戒しつつ、光学迷彩のまま、傾斜九十度はある壁を登っていく。

 ――――流石は名がゲッコーヤモリなだけはある――――。


「たいしたものだ」

 岩壁をまるで平地を歩いてるかのような速度で登っていくから、ベルが感嘆の声を漏らし、ディスプレイ側からは、『どうも』って返ってきた。

 その〝どうも〟って返しに、無線で、しかも耳に収まる大きさで、こんなにもクリアに声が拾える通信機があるのかと、感動しているベル。その辺は立派な軍人である。

 ――――瞬く間に、鎧戸がある所に到着。

 

『ん?』

 視線を感じたのか、見張り台の方に目を向けるゲッコーさん。

 ディスプレイに映し出されるオークは、ゲッコーさんの方に目を向けていた。

 しかし、何も無いと思ったようで、その視線を壁側の方から門方向に向け直す。

 ゲッコーさんは素早く鎧戸の隙間にナイフを入れて、内側のロックを外すと、砦の中へと潜入する。


『中々に訓練されているな。亜人たちも』

 確かにだ。

 単純な知能かと思っていたけど、見張りを愚直にする姿は、上からの指示に忠実に従っている証拠。

 魔王軍はちゃんと統制がとれているって事だな。

 ――――光学迷彩であっても、通路の角、物陰を活用しながら、歩哨であるオーク達を回避しつつ、素早く砦内部をマッピングしていくゲッコーさん。

 あっという間に調べ上げると、


『これから地下を攻める』

 侵入した二階から調べ上げていき、一階から地下に繋がる階段を発見。

 三層構造からなる砦を自分の住処のように進んで行く。

 お約束とばかりの地下牢があるという事は理解できた。

 ゲッコーさん、マッピングの最中にも無駄を出さぬように、C-4の仕掛けを同時進行で行いながら、地下に潜入。

 そのC-4も、どこからともなく手元に現れて、設置すればまた現れるというご都合主義だ。ビバチートである。


『ドローンを使う』

 今以上に慎重に行動すると俺たちに伝えれば、ゲームでもお馴染みの、三輪からなるドローンを床に置き、ゲッコーさん同様に、光学迷彩が施される。

 駆動音を立てることも無く、凸凹の石床を進み、角を曲がり、また角を曲がる――。

 何かを感じ取ったのか、先ほどまでと違い、操作するドローンの進みがゆっくりとなり、通路の角を慎重に曲がる。

 ――次ぎに映像に映し出されたのは、木材を使用した牢屋と、その前にオークが二体。


『う~ん……』

 重い声を漏らすゲッコーさんに対して、俺の横では、左手で鞘を強く握っているのか、カタカタと剣の柄が振るえている。

 今にも抜剣して、単身にて砦に斬り込んで行きそうな怒りを纏ったベル。

 臨界点が近いのか、真紅の長い髪が、炎のように揺らめいていた。


「落ち着いてくれよ。まだ行動するなよ」


「分かっている!」

 お怒りなのも分かる。俺だって、同じ感情だもの。

 ――――ディスプレイに映し出されたドローンからの映像は、牢屋の中。

 全裸にされた若い女性がすし詰め状態だ。

 皆さん力なく三角座りである。

 ドローンのカメラがズームになり、表情をとらえれば、生気を失った、うつろなものであった。

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