PHASE-354【車内の女子力低下が著しい】

 移動中で手持ち無沙汰ってのもあり、高順氏のパラメーターをプレイギアに表示する。


 武力87 

 知力71

 統率90

 忠誠20


 やはり陥陣営と言うだけあって、統率は高い。ベルよりも高い。

 用兵と自身の技量で敵陣を陥落させるのはダテじゃない。

 ベルは感情に左右されやすいのが、数値に反映されているんだろうな。

 忠誠が20ってのは、俺の事を未だに信用できていないってことだろう。先生と一緒にいるわけだし。


 留まってくれたのは、この世界の現状と、ひとえにモフモフのおかげだな。

 渋い顔のおっさんが可愛い物好きというギャップ。

 おちょくることだけはすまい。怒ると怖そうだからな。

 

 これだけ高いパラメーターなら、問題ないだろう。

 ベル曰く、俺に見舞った突きから考察するに、相当の武人という認識。

 常に本気は出すが、もし高順氏と戦うことになるなら、全力で相手をしないといけないと言わせるあたり、実力はやはり本物のようだ。


 とりわけ統率の高さは指揮官としてもってこい。


 知力は71と標準だが、用兵術と統率。生真面目さから考えるに、リュミット達の助言を真摯になって聞くタイプだと思うから、ステータス以上の力を発揮するだろう。

 呂布を諫めてうっとうしがられるっていう経験を持っている人だしな。

 結果それが原因で、自分の兵を没収されて、他の武将に大切な兵を与えるという呂布の嫌がらせを受ける羽目になるんだよな……。

 だからこそ、自分がされて嫌なことを他者にはしないはずだし、自分がそうであったからこそ、人の諫言にもしっかりと耳を傾けられる将器を持つ人物だと、先生は高く評価していた。

 

 しつこいけども、列伝を目にする度に、なんでずっと呂布に付き従ったんだろうと、不思議でならない人物だ。

 嫌がらせをされても揺るがない忠誠は、三国志の中でも謎である。

 

 先生が言ってたように、張遼と一緒に曹操の軍門に降っていたら、間違いなく歴史に名を残す勇将になっていただろう。

 そうなってたなら、ゲームステータスだって、今以上の高ステで優遇されているキャラだと思うね。

 歴史ではその力を遺憾なく発揮出来なかった分、ここでは発揮してもらえると助かる。


「それはそうとして……」


「はあ……」

 俺の斜め前に座っているベルの落ち込みっぷりたるや。

 モフモフロスが相当に辛いようだ。

 この一週間ずっとこの調子。現実ではあり得ない喋るモフモフと過ごしたファンタジーな生活を忘れ去るのはとても辛いご様子。

 ね~。俺に発破をかけるように、王侯貴族の前で蒲田行進曲背中に蹴りを見舞ったのと同じ人物とは思えないよ。


「トール」


「なんでしょう」

 俺の視線が気に入らなかったのか? モフモフロスのストレスを俺にぶつけないでくれよ。


「その、ナイフは必要か?」


「必要だよ」

 俺がシャルナと共に討伐した、百足からゲットした顎より作ったナイフ。

 出立前に俺がゴロ太から貰ったナイフ。なんとゴロ太のお手製だ。

 籠手が盾代わりになるも、念のためにと、盾代わりとしてゴロ太が作ったのは、ソードブレイカーと呼ばれる短剣。

 顎のギザギザを活かし、その箇所を峰部分として、相手の刃をギザギザに噛ませてダメージを与えたり、折ったりする活用法。

 鍔部分の形状は、刃の方に向かってUの字。

 この箇所では相手の刀剣を挟んで折るそうで、攻めより守りに適したナイフだ。

 

 これをゴロ太が作ったもんだから、ベルが欲しがる欲しがる。

 モフモフロスが現れてからは顕著だ。


「王都に戻ったらゴロ太に頼んでやるから。ベルの分も作ってくれって」


「約束だぞ」

 目力が凄いよ。


「自分で言えよ」


「ゴロ太に無用な時間を割かせるのは申し訳ないだろう」

 ――……どんだけモフモフファーストなんだよ。

 流石に呆れるわ!

 会話が終われば、モフモフロスの寂しさから、ベルはため息を続ける……。


 そんなベルの後部座席――――、つまりは俺の隣では、コクリコとシャルナがベルのため息とは違う、独特な呼吸音を俺の耳朶に届けてくる。


「これって便利だね」


「そうでしょうシャルナ。この仮面を装備した時には――――ええっと――――」

 メモ帳を取り出し、コクリコは継いで、


「いいですか。You don't know the power of the dark side.と言えば、この仮面を極めたことになります」


「そうなの?」


「はい!」

 ――……はい! じゃねえよ! 適当なウソ言いやがって。

 俺が言ったことをしっかりと覚えてるし、流ちょうに言えてるところが感心するわ!

 琴線に触れたとはいえ、ここまで綺麗に発音するなんてな。

 あのメモ帳はあいつにとって本当に命だな。

 間違いなくあと四、五年もすれば、黒歴史確定の束になるんだろうが……。


「いや~でも本当に便利」

 シューコー、コーホーと、輝く長い金髪を揺らしながら喜んでいるけども……。

 俺の視界にいるのは、完全に女子力を捨てた存在だ。

 美人エルフのガスマスク姿はガッカリ感しかない……。

 とはいえ、現在は瘴気の蔓延した地帯を走っている。これを付けてもらわないと動けなくなるし、その後、俺たちに襲いかかってくるだろうからな。


「しかし、なんでエルフやドワーフは亜人というポジションなのに、瘴気に毒されるんだろうな」

 コボルトとかは大丈夫なのに。


「それは私達が人間側に味方しているからよ。この瘴気は人間側に味方している亜人にも効果があるんだよね。コボルトは魔王軍にとって人足役だからってのもあるし、脅威とは思われていないから、無害に設定しているのかも」


「設定って……」


「設定でしょ。この瘴気は魔王が放出しているらしいから」

 大陸だけでなく、火龍のいた要塞の海も瘴気が広がっていた。

 それだけの毒を拡散できる存在って相当だよな。

 いったいどんな奴なんだろうな。魔王って。

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