PHASE-1389【弾く】

「伸びきった横隊なんて間でぶった切って、混乱したところを各個撃破してやる!」


「流石は勇者だな。よく理解している」


「え?」


「なんだ。適当に言ったのか?」


「まあ、はい。勢いで言いました」


「ならば戦いが体に染みついてきたということだろう。そういった考えに直ぐに至れるのは、戦場で戦術を学んできているということだろうからな。王都にいる知者も今の勇者の発言を耳にすれば喜ぶと思う」


「そうですかね?」


「そうですとも!」

 と、ここでロンゲルさんが割って入る。


「指揮官殿も言ったように、相手は欲を掻きすぎているんですよ」

 と、継ぐ。

 要塞トールハンマーの長大な防御壁を各所で破壊することで突破を試みようと考えているから横隊となる。

 別段、間違った戦い方ではないんだろうが、その為には兵が少なすぎるということだった。

 長大な防御壁を同時進行して破壊するとなると、更に十倍の数を必要とするだろうとのこと。

 湿地帯ということもあり、泥濘でいねいに足を奪われる。

 そういった大地だからこそ、攻城兵器を攻め手が運用するのは難しい。

 防御壁だけでなく、拒馬に防塁を突破してからようやく防御壁に辿り着くことができるが、その間に攻め手は大きな損耗を出す事になる。

 三万程度でこの要塞を攻めるのはあまりにもなめているそうだ。


「――うん。だったら籠もって戦えばいいのでは?」

 素直な意見を述べると、


「そうなのですがね。こっちの方が手っ取り早いと指揮官殿が仰るので」

 まあ実際、高順氏が指揮して突っ込んでいった方が手早く片づくのは確かだな。

 攻城戦にて防衛を主軸とするなら、先生も高順氏よりも別の人間を任命するだろうからね。

 

 だからこそ――、


「よしお前たち! 敵を狩って狩って功名を上げるぞ!」

 と、突撃精神の強そうな面々を要塞に赴任させているんだろうからな。

 ロンゲルさんの発言に、「皆! やっど、やっど!」や「分かっちゅう!」といった会話が後方から聞こえてくる。

 訛りに統一性のないロンゲルさん麾下の兵士たちの血気盛んさに、続く他の騎兵達の喊声も勢いが増す。


「いいですね~」

 これに内のパーティーで最も血の気が多いコクリコも乗っかる。


『敵側! トロールによる防御態勢』

 我らがU- 2偵察機であるシャルナが上空から報告を入れてくれる。

 イヤホンマイクにより耳朶に届いた内容を俺が伝達すれば、


「攻めてきておいて防御とはな」

 静かに、でも猛る声音が混じる高順氏がワーグの横っ腹にトンッと両足を当てれば、更に加速。

 馬とは違って頭の重心が地面に近いからか、湿地を滑るように疾駆する姿は格好いい。


「絶地。一番槍は我々が得るぞ」

 高順氏がそう言えば、ワーグがグルルと低く唸る。

 ゼッチってのがワーグの名前か。


「名の由来は?」


「周王朝、第五代王である穆王ぼくおうが所有していた、穆王八駿からだ。大地を踏み荒らさず飛翔するかの如く駆ける馬――絶地からそのまま名をもらい受けた」

 泥濘ぬかるむ湿地の中でも地面を滑空するような走りは名前負けしていない。


「名付け通りの走りですね」


「そうだろう」

 と、ご満悦。

 自分の足となってくれている存在を褒められると嬉しいのは、やはり馬上を主とする武将として誉れのようだ。


『なんか余裕ある会話をしてるみたいだけど大丈夫? そろそろ相手の矢の射程だよ』

 上空からの警告をここでも伝達。


「相手の矢の射程なら、こちらの矢は既に射程内だ。要塞の職人達と窟のドワーフ達が製作した弓と矢の力を見せてやろう」


「承知! 弓箭隊、騎射準備!」

 ロンゲルさんの大音声に合わせて背後からザザッという音が聞こえてくる。

 馬の進む足音と、馬甲や鎧が擦れる金属音の中で新たな音が加わり、直ぐに弦を引く音も聞こえてくる。

 弦音だけでも統率が取れているのが、後方を見なくても分かるというもの。


「精密な機械のようだよ」

 ポツリと呟く。

 集団が弦を引いているはずなのに、狂いなく同時に引いたのか、弦音が一つに聞こえた。


「放て」

 と、低く発する高順氏に続いてロンゲルさんが「放て!」と、大音声で発せば、無数の矢が俺達の進行ルートの空を覆っていく。


 ――放物線を描きながら飛んでいく矢がトロールの防御陣を飛び越えて目標地点に落下すれば、苦痛の声が上がっているのがこちらにも届いてくる。


『一射目効果あり』

 上空から相手側の状況を見ているシャルナからの効果ありという発言を伝え、相手が一射のみで慌てているというのを続けて伝えれば、


「このまま錐行陣にて突撃する」

 ここでも低い声の高順氏。

 聞き取りづらそうな声の音量だと思うんだけども、後方の騎兵には聞こえているようで、手旗を揚げて応じれば、喊声が咆哮の波となって相手へと放たれる。

 この声の圧により、相手側の動きが更に悪くなっているとシャルナ。


『悪くはなったけど矢がくるよ』

 報告通りだが、こちらと違って一斉射には協調性がなく、まばらに飛んでくるだけ。


「構わず進む」

 淡々とした高順氏の発言に、「応よ!」とロンゲルさんが続く。

 俺はおっかないのでイグニースを展開。

 いかんせん他の馬と違って、ダイフクは馬甲を装備してないからね。


「来ますよ!」

 空へと向かっていた鏃が俺達の方へと向いて落下。

 曲芸乗りのコクリコが警戒を発せば、高順氏は姿勢を変えず、速度も落とさないままひたすらに直進。

 後方では第二射を放つと、一斉に弓から盾へと装備を変え、空へと向ける。


「おう!」

 キンキンッ! といった鏃を弾く音が多方向から聞こえてくる。

 降り注ぐ矢を盾が弾き、盾と盾の隙間を縫ってくる矢も馬甲が勢いよく弾いていた。


「すげえ」

 並の防具や馬甲なら突き刺さるんだろうけど、ドワーフさん達が中心となって要塞内で製作した装備は、矢の脅威を受け付けない。

 これに加えて、良い装備を更に強化しているのが高順氏のユニークスキルである【陥陣営】だろう。

 野戦にて指揮する騎兵の攻撃力と防御力を15パーセントアップ。

 この15パーセントアップが装備にも影響しているのかもしれない。

 落下してくる矢を盾だけでなく、防具と馬甲で弾いているのもユニークスキルによる恩恵が関係していると考えられる。

 これが野戦じゃなく敵陣営の攻撃となると、25パーセントまでアップするからな。

 

 間近で見ると、高順氏のスキルの凄さがよく伝わってくる。

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