PHASE-183【アハトアハト】

「なにこれ……? 鉄の象?」

 シャルナの驚きは、相当のようだ。

 笹状の耳がピンと尖って、空を向いている。


「流れからして、ケーニッヒス・ティーガーかと思ったぞ」

 冷静な返しのゲッコーさん。

 ごめんなさいね。

 

 ケーニッヒス・ティーガーという大型のモンスターがこの山にいたもんね。


「ま、まあ、ティーガー1のほうが浪漫でしょ」


「だな」

 納得してくれた。

 正直なところ、このゲームでドイツ重戦車は、ティーガー1までしかアンロックしてないんだよね。

 

 その先であるケーニッヒス・ティーガーこと、ティーガー2は、ポイント足りなくてアンロックできてないんだよね~。

 パーシングに浮気しちゃったんだよね~。

 まあ、俺のゲーム進行状況なんてどうでもいい。

 

 操作方法はミズーリと同じ要領なんだろう。

 

 一度経験すれば次への行動は早い。

 さっさとハッチを開いて中に入り込む。


「おお! 鉄のにおいが如何にも戦う男って感じじゃないか」

 プレイギアを手にしてディスプレイを目にすれば、ミズーリ同様に外の映像が映し出されているし、ミニマップには赤点でゴーレム二体と、山賊たちが表示されている。


「大きな赤点二つがゴーレムか」

 興味津々のワックさんが中々に離れてくれなかったが、後で見せてあげると伝えて離れてもらい、周囲に人がいないことを確認してから。


「見せてやる! 8.8㎝アハトアハトの力を! パンツァー・マルシュ!!」

 一両で行進マルシュってのもなんだけど。こういうのは雰囲気だからな! 気にしたら負けだ。

 なので、左スティックを前へと倒す。

 

 全長八メートルを超える鉄の塊が、無限軌道によって動き出す。


「なんだありゃ!?」

 目にしたこともない物が迫ってくる。迫ってこられれば、山賊たちは共通して恐怖の感情に支配された。

 ティーガー1の登場に、完全に浮き足立っている。


「落ち着け! 大きさじゃ負けてねえ! もう一体だ!」

 なんて声が相対する方から聞こえてくるが、


「声が、震えてるよ」

 ポツリと独白し、車内でほくそ笑んでしまう。

 照準をゴーレムへと向け、L2トリガーで狙いを定めれば、ミズーリと一緒で、照準である赤い円が絞り込まれていき、緑に変わる。

 撃てば当たるって合図だ。

 選んだ砲弾は徹甲弾。


 R2トリガーを引けば、どんな物でも容易く破壊してしまいそうな発射音とともに、直ぐさまターゲットとなっていたゴーレムの腹部に直撃。

 腹部に大穴が出来る――――のではなく、両断だ。

 徹甲弾として最高の仕事を行ってくれた。


 一発でゴーレムを戦闘不能にする破壊力。


 続いて、第二射用意。

 これまたミズーリと一緒で、オートリロード使用。

 ゲーム性能万歳だ。


 ――狙いを定めて発射をすれば、召喚されたばかりの動きの鈍い二体目もあっけなくダウン。

 一キロ圏内なら、アハトアハトの精度からは逃げられないぜ!


『見たかティーガー1の強さ! ワイが異世界のオットー・カリウスじゃい!』


「それはない。調子に乗りすぎだ」


『あ、はい……』

 すっごい炯眼で睨まれたんですけど……。

 カメラ越しの視線だったけど、ゲッコーさんが怖かった……。


 名のある軍人の名前を軽々しく使うなということなんだろう。


「ちきしょう! おい!」

 おっと、こっちも心胆が寒からしめられたけども、向こうも向こうで冷え冷えの状況だろう。


『何度、抵抗しても無駄! だから投降してね』

 アハトアハトを山賊たちに向ければ、スクロールを取り出そうとした動きがピタリと止まる。

 

 キュラキュラと音を立て、無限軌道でゆっくりと山賊たちに接近。

 大きな存在が地を揺らし悠々と近づいてくる姿に最早、抵抗の意志を見せようとしない。

 アジトが壊されて逃げ出してる奴らだし、ゴーレム以上の存在を目にすれば、戦意は簡単に挫くことが出来る。


「戦うかい?」

 ハッチを開けて見下ろしながら問えば、


「…………やめておき……やす」

 うむ、賊らしい敬語だ。


「懸命だね。悪さをしたんだ。罪は償えよ」

 項垂れて、弱々しく首肯で返してきた。

 

 償うもんを償ったら、まっとうに生きることだな。


 それはそうと、投降した連中からスクロールを没収せねば。

 欲しいというのも理由だが、悪あがきで使用されてもかなわないからな。

 

 俺の考えをいち早く理解したゲッコーさんが回収してくれた。

 碧眼の炯眼に睨まれれば、素直に渡す。


 相手は山賊だが、俺達のやってることは、相手とあんまり変わらないような気もするが、ゴーレムにクリエイトの魔法が封じられたスクロールは最高の戦利品だ。


 ゴーレムは前線で戦うギルドメンバーが欲しがるだろう。


 クリエイトは壊れた物を修復するのに使えるみたいだから、ギルドメンバーだと、修復作業を得意とする面子が欲しがるに違いない。

 

 報酬がレアなスクロールとなれば、クエストに励むためのモチベーションに繋がる。

 それが世の安寧のためにも繋がる。

 いい連鎖だ。


 先生に比べればしょぼい発想だが、会頭としての責任もちゃんと果たそうとしております。

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