PHASE-1119【高床式】

「てことは、その長が今回の黒幕?」


「申し訳ありません師匠。まずないと思います。争いを嫌う御方ですから」

 てことは人格者って事か。

 ならこの反乱には荷担していないということかな?

 となると、求心力の無い人物だとも考えられる。この反乱を止める事が出来なかったんだからな。


「具申します勇者殿」

 具申ではなく意見でいいですよ。別に俺は貴男の上役じゃないんだし。

 と、言いたかったが、真顔でこっちをじっと見てくるルーシャンナルさんの目力の迫力に声が出なかったので、首肯にて返す俺……。


「お弟子殿を否定されるのはご不快でしょうが、多角的に考えるべきかと」


「でしょうね。その辺は抜かりないです」


「余計な発言でしたか。お許しを」


「いえいえ、感謝します」

 先生や荀攸さんのような賢者と一緒に行動もしてたからね。短絡的な考えはせず、ちゃんと熟考しますよ。

 イエスマンであるカゲストとダークエルフさん達の長が結託している可能性だってあると考えて行動はするつもりだ。


「でも長がいるってのは収穫だな」

 この広い集落で的を絞ることも出来るってもんだ。


「サルタナ」


「任せてください」

 胸にポンと拳を当てて、自分に任せてほしいといった感じだ。

 師である俺とハイエルフを先頭にて誘導する事への責任感と高揚感に包まれているといったところだろう。


「お願いします」


「任されよ」

 ここでもエルダースケルトン二体がサルタナの側に立って守護してくれる。

 意思疎通がしっかりと取れて、尚且つ強い上位アンデッドって本当に有り難い戦力だよ。

 それに慣れてきたのか、眼窩に緑光が灯る存在と至近で話してても怖いといった感情が薄れてきているのが自分でも分かる。

 これが体が欠損しているドドメ色なゾンビ系とかだと話は別なんだろうけども。


 ――――あれか。


 皆して身を低くしつつ、可能な限り障害物を利用しながら移動。

 加えてサルタナの歩調に合わせたから時間はかかったが、ゆっくりと動けた分、エルダー達の流線型デザインからなる金属鎧から音があまり立たなかったのでむしろ良し。


「確かに他の建物より立派だな」

 この集落の建物はククリス村のような長屋ではなく、小学校のころ社会科見学で訪れた吉野ヶ里遺跡にある高床式と同じ工法からなっている。

 樹上にツリーハウスを立てるエルフさん達に対する憧れがあるように思えるのは俺だけかな?

 ――その中でも一際大きな高床式の建物が眼界に入ってくる。


「ビンゴだな」


「はい」

 サルタナは自身が誘導した場所が正解だったからか、安堵が混じる返事。

 建物の前には厳重な警護がついている。

 装備も集落周辺で戦った者達よりもランクが上のモノ。

 屋敷前の立哨たちの防具は、革と金属のハイブリッドなブレストプレートとは違い、腹部もしっかりと守られたスケイルアーマー。

 これに加えて鼻当てつきの鉄製の兜も被っている。確か――ノルマン・ヘルムって呼ばれるタイプのモノだな。

 しっかりとした防具に、木製の柄を補強した革柄からなる槍を握っている。

 副兵装としてショートソードを佩き、弓も携帯。

 立哨たちはダークエルフさん達の中では近衛的なポジションだと思われる。


「よう」


「出てくる時は事前に連絡を入れる事が出来ますよね。なんのために耳につけさせてんですか」

 ワイヤレスイヤホンマイクを指さしつつ発せば、


「悪い、悪い。だが上出来だな。俺の連絡が入る前にここまで来たんだからな」

 ここでゲッコーさんと合流。


「シャルナにリンファさんも無事なようで」


「当然」

 と返してくるシャルナと違って、リンファさんは肩で息をしている。

 ゲッコーさんも素人であるリンファさんをつれての行動だったから、潜入は成功していても移動には色々と苦労したんだろうな。


「やっぱりあそこなんでしょうかね?」


「あの守りなら間違いなくそうだろう」


「気をつけないとね。ミストウルフも結構いるみたいだし」

 身を低くするシャルナが指を差す方向にはうっすらと霧がかかっている。

 霧状態になったミストウルフのようだ。

 油断して近づけば、即感知されるといったところ。


「ゲッコーさんならいけそうですよね」


「だと思うだろ。俺達はいま風下にいるからいいが、狼の嗅覚に捕捉されれば、この集落では嗅がないニオイだと判断し、警戒態勢へと移行するだろう」

 光学迷彩を使用したとしても狼の嗅覚によって感づかれ、霧に触れれば視認されなくても警戒の咆哮を上げることは想像に難くない。

 スパイ映画なんかでよく目にするレーザートラップみたいなもんだろう。

 万全とばかりにその霧が屋敷の周囲に漂っている。


「あそこに潜入するのは難しいな」


「そうですか」

 ゲッコーさんが難しいと言っている時点で即、潜入という案を捨てる。

 

 もう少し様子を見れば潜入も可能かもしれないが――とは言ってくれるけども、流石にここで時間を消費するのもよくない。

 集落の外周ではコクリコ達が頑張ってくれているけど、任せてばかりだと申し訳ない。

 それに、こちらサイドが外で大立ち回りをしているというのに、あそこの連中は微動だにしない。

 外周での戦闘には気にも留めず、ただただ屋敷の周囲だけを警護している。

 それだけその屋敷の中にいる存在が重要って事だろう。

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