PHASE-489【片合掌、合掌】

 確実にダメージとなった一撃を無駄にしないためにも、俺は勢いを殺さないままに、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 気概と共にガリヤードを押していく。

 身長は俺と大してかわらないものの、俺の体を宙に浮かせるだけの膂力を持っているからか、ダメージを負いながらでも両足を踏ん張れば、俺の進行が止まる。


「なめるなよ勇者!」

 語尾に進むにつれ、強い語気に変わる。

 後退はしないという意志が、しっかりと俺にプレッシャーとなって伝わる。

 ガリヤードの背後から、気炎が幻視するほどだ。


 しっかりと握られたブロードソード。

 持ち方を逆手へと変更し、諸手で握れば、切っ先を俺へと向ける。


「その首へと突き立ててやろう」


「おら!」

 こっちだって簡単に首はやれない。突き立てた刀身をグリッと回し、傷口を広げる。

 激痛に襲われ、俺への一刺しが中断するが、呼吸を整えて今一度、仕掛けようとするのが分かった。


「せい!」

 快活のよい声と共に、金色の美しい髪が俺よりも更に下段を通過する。


「なに!?」

 バランスを崩すガリヤード。


「シャルナ。助かる」


「本来ウルクは私が倒さないといけないけど、任せるよ」


「ここまでしてくれたんだ。共同討伐で」

 ハイエルフでありながら、外道を歩んだ者を許さないシャルナは、俺の発言に笑みで返してくれる。

 値千金であったシャルナの斬撃。

 黒石英のショートソードからの一閃は、踏ん張っていたガリヤードの両足を両断。


 同時に俺の残火にずっしりとした重みが押し寄せてきたけども、


「うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 気迫を発して足を進め、ガリヤードの背中を通路の壁に叩き付ける。

 

「かは…………おの……れ!」

 怒りと共に口から血の泡を吐き出しつつ、逆手に持ったブロードソードを今度こそはとばかりに勢いよく振り下ろす。


 が――、


「どっこいしょ!」

 残火を手放し、ガリヤードの両腕に手を当てて突きの動作を停止させ、体を百八十度反転。

 ガリヤードに背を向けた状態で、両腕を掴んだまま背を丸めて体を低くしつつ、尻を突き上げるようにしてガリヤードを投げる。

 体育の授業で柔道の経験はあったけど、今回のは、完全に素人のファンタジー補正による投げだ。

 肉体強化のインクリーズ頼りの投げ。


 両腕を掴んで、受け身を封じた投げで、顔面を床に思いっ切り叩き付ける。

 この時、ガリヤードは既に事切れていた。

 投げによるダメージよりも、俺が優先したのは残火による斬撃だったからだ。 

 

 残火を腹部に突き刺し、ガリヤードの背が壁に触れていたのだから、当然、残火の切っ先が壁に刺さった状態。

 この時、残火は刃の部分が床の方を向いて壁に刺さっていた。

 それで投げ技をしたのだから、腹部から下がバッサリと斬れることになる。

 この時点で絶命。

 投げのダメージはオーバーキル。

 だが命の奪い合いである。追撃の一撃が過剰なものであっても許してもらいたい。

 亡骸の顔は、ぐしゃりと潰れていた。

 腹部からは、はらわたも流れ出ている。

 凄惨な状況に肝が潰れてしまいそうだが、俺がやった事。


 命の奪い合いは、凄惨な結果が必ずついてくる。


 毎度の事だが、出来る事は倒した相手に対して、手を合わせることくらい。

 いまは片合掌で勘弁してくれ。だって戦いはまだ継続中だから。

 残火を壁から引き抜き、血振りをして――、


「要塞副官のガリヤードは、俺とシャルナが倒した!」

 気迫を持って伝えれば、残敵も流石に怯む。


「素晴らしいものだったぞ」


「最後の投げはえげつなかったな」

 と、ベルとゲッコーさんからの称賛。


「ライトニングスネーク」

 称賛はないが、浮き足だった相手を察知するのが野生の獣並みに特化したコクリコの電撃が、正面の部隊に走る。

 俺がガリヤードと戦っている最中に、背後からの部隊は、ランシェルとコクリコによって壊滅していた。

 浮き足立つところに、雷撃による追撃は、抜群の効果。


 レッドキャップスもおらず、副官がやられた護衛軍は後退していく。

 後退はするけども、まだ戦いを諦めているといったものではなく、立て直すといった行動だった。

 浮き足だっても士気はくじけない。魔王に対する忠誠心がそれを可能としているわけだな。

 

 ――相手が立て直す間に、俺たちも少し休憩。

 ベルとゲッコーさんがいるとはいえ、連戦となるとスタミナの消耗も激しい。

 攻撃に警戒しながらも、体を弛緩させて柔軟。


「ほら」

 お久しぶりの甘々な軍用エナジーバー。ファースト・ストライク・レーションの中の一つをゲッコーさんから手渡される。

 チョコレート味の喉が渇く甘味。

 ソフトキャンディーのような食感だから、いつまでも口に残る。

 でも高カロリーだから、こういう時には手軽にエネルギーが補給できる有りがたい食べ物でもある。


「もう一個ください」

 ガスマスクを外し、口に含んだまま催促するコクリコの姿は逞しかった。

 現在はシャルナが展開している半円状のプロテクションの中にいるおかげで、瘴気から身を守れている状態。

 ずっと維持できる訳でもないので、その中での休憩は、シャルナにとっては休憩にはなっていない。

 両手でプロテクションを展開しているシャルナには、ランシェルがエナジーバーと柑橘水の飲食補助をしていた。

 プロテクションの解除が終われば、ガスマスクを再度装着したシャルナには、後方で体を休めてもらう。

 集中力の欠如は射手にとっては致命的だからな。

 

 ――――前進を再開。


「ふむ」


「どうした?」

 神妙な顔だったようで、ベルが気になったようだ。


「いや、さっきのウルクのガリヤードなんだけども――――」

 休憩中にしっかりと両手での合掌を行い、プレイギアで調べたら、レベルは57だった。

 57レベルを俺は倒したわけだ。

 ベルとシャルナからの掩護もあり、ガリヤードからプレッシャーを受けたけども、正直、苦戦というほどの事はなかった。

 一人で戦おうと思えば戦えた相手。

 侯爵の別邸で戦ったゼノの方が多芸だったし強かった。


「それだけお前が強くなっているのだ」

 俺の説明を聞いたベルの総括。

 短い言葉だったけど、誇らしくなれる内容だった。

 

 57レベルと良い勝負が出来たからな、現状、俺のレベルは41だけど、これは間違いなく今回で50は超えると予想。

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