PHASE-1060【母ちゃんは強い】
「さあ、本番を始めましょう」
わお! 超快活な超美人が参上。
でも誰だか直ぐに分かる。
「あの人、シャルナのお母さんだろ」
「そうだよ」
料理の乗ったトレーを両手に持って運ぶ姿は元気の塊。
おしとやかなお姉さんの性格は父親譲りで、シャルナの快活さは母親譲りだな。
「さあ、王も座ってください」
「であるな」
言われて素直に従う当たり、カミーユさんには逆らわないほうがいいと判断しているんだろう。
「勇者様。初めまして」
「あ、どうも」
目の前に食事が運ばれれば横ではコクリコのテンションが爆上がり。
パンとスープだけではなく、ここでようやくコクリコの求めていた肉の塊が元気の塊によって運ばれてきた。
「娘が迷惑をかけていませんか?」
と、やはりここは家族共通の挨拶。
「いえ、助けられてます」
「あらうれしい返し! たくさん食べてくださいね~」
なんだろう……。見た目は若くて美人だけど、中身はちょっとおばさんのリアクションだな……。
気圧されるよ。
なんか内の母ちゃんを思い出す。こんな美人じゃないけども。
「アナタ。勇者様御一行が滞在する間は常に歓待の精神でお願いしますよ」
「分かっている」
「胃ばっかり擦ってないでこちらの手伝いもしてください」
「ああ」
元気の塊カミーユさんはそう言ってルミナングスさんを連れ立ち、給仕の方々と一緒になり食事を運んで回る。
氏族の奥さんなのに給仕の方々と一緒になって働く姿は、階級制に縛られないという姿だった。
細目で表情をあまり変えないから、考えを外側から窺い知ることが難しかったあの蛇さんも、カミーユさんを前にすれば萎縮したように居住まいを正していた。
その後に続くルミナングスさんは会釈しつつの苦笑い。
蛇さんも苦笑いで返していた。
「何処の世界も母ちゃんって強いんだな」
と、シャルナの両親を見ながらしみじみと思い独白。
完全に尻に敷かれている光景である。
俺の父ちゃんと母ちゃんを思い出してしまった……。
まあ、ルミナングスさんはカミーユさんに蹴られるという事はないんだろうけどな。
――――豪勢な食事を楽しませてもらった。
そんな中で進みが鈍かったエリスの姿が印象に残った会食だった。
次を担うためには現王が言うように、もっと剛胆にならないといけないな。
外の世界に出るだけの勇気もあったんだからな。きっかけがあれば精神的な成長を一気に促すことが出来るだろうね。
――――。
「はぁぁぁぁ……」
「お疲れ様でした」
屋敷の広間に入れば、真っ先に耳朶に届いたのは挨拶ではなく嘆息。
王側と氏族側の関係性を維持するように立ち回るルミナングスさんはお疲れのご様子。
というか、昨晩は元気で美人の奥さんに振り回されてたからな。
氏族筆頭の蛇さんもカミーユさんには気圧されていたみたいだし。
エルフ王の周囲で仕事をしている女性陣は強いのかもね。
まあそれは俺のパーティーにも当てはまる事だけども……。
俺の発言に感謝しつつテーブルに突っ伏しながら朝の挨拶。
起き上がるのも面倒みたいだな。こんなだらけたルミナングスさんは初めてだ。
「ふぅぅぅぅ……」
疲れの原因は奥さんに振り回されただけじゃ――ないようだな……。
突っ伏しながら胃の部分を擦っている姿はストレスが原因。
胃へのダメージは、謁見の間でのコクリコの発言が一番効いただろう。
俺達は発言に対して拍手を送ったが、ルミナングスさんはあの後の展開がどうなるかという心配で胃に大きな負担がかかったようだ。
実際はエルフ王も拍手をしてくれたけど、それでも精神的ダメージは未だに残っている模様。
だらけた姿で朝食を取る姿には、氏族としての威厳はなかった。
「ほうほう」
「んぐぅ!?」
と、ここでストレスを与えた存在であるコクリコが現れ、食事中の姿を覗き込まれれば、食べていたサンドウィッチを喉に詰まらせそうになりながら姿勢を正す。
「美味しそうですね」
の一言がコクリコの朝の挨拶。
「よ、よろしければ……」
完全にコクリコに呑まれてるやん。
十四歳の少女に戦々恐々である五千年以上を生きるハイエルフ。
その姿には哀愁を感じてしまう。
まあコクリコは満腹にさせとけば大人しくなるからその行動は正解ではあるけど。
勧められれば遠慮なしに皿の上のサンドウィッチを頬ばる。
食欲のままに動く単純なコクリコ。
冒険者にとって単純ってのは時として重要でもあるけどな。
うん――――。よし!
「ちょっと出ますね」
「な、なりゃば――うっく。私も同行しましょう」
と、俺が何処に出るのか悟ったようで、一気に食べきるとキノコの椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がるコクリコ。
これに加えて、
「ならワシも」
と、ギムロン。
って、昨日と同じ面子だな。
他にも声をかけるが昨日と同じ内容で不参加。
ベルは本日もミユキとじゃれる予定だ……。
幸せそうで何より。俺にも向けて欲しい優しい笑顔。
各々、自由に行動するようだし、俺も冒険者として単純に行動してみようかね。
この国での出会いを大事にしておきたいし――。
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