第532話 鏡 ⑥

「自尊心の問題、でしょうか」


「そうだ。

 簡単にいえば、一緒に遊びたいなら、仲間を殴ったり罵ったりしないって約束ぐらいは守れよって話だな。

 それができないなら他所に行くか、虐められるのを覚悟しろよって事だ。

 話が逸れちまうな。

 お前、案外、聞き上手か」


「初めて知る事ばっかりですから、それにお話が上手だからです」


「ありがとうよ。

 この墓を作り上げたのは、コルテスの金とボフダンの技術力、そして公王から依頼を受けた建築家と芸術家の集団だ。

 謂わば、中央大陸一の墓、芸術作品で技術の結晶。

 無駄金の見本だ。」


 と、その絶景を眺める。

 美しい自然の中にあるのは、湖面から突き出る白い石柱群と煌めく水晶の足場。

 そして湖の中央には、芸術品ともいえる墓が見えた。

 これが王都の美術館にあるというのなら、何も思わない。

 それが孤絶した湖の只中に、あるのだ。

 美しいと思うと同時に、恐ろしいと私は思う。


「東部マレイラ人としようか、彼らは技術を探求する者だ。

 建前、政治、宗教思想において、排他的な立場なのにだ。

 コルテス人は、現公王と同じ洗練された技術に金をかける。

 軍事支援も、結局は資源と人を求めてだ。

 ボフダン人は、その技術を求めて、外部他人種を受けれいている。

 極東は人口の比率からいえば、既に長命種以外の人種が圧倒的におおいのだ。

 外部には何も喧伝していないが、既に鎖領していない。

 シェルバン人は、実はな、元々は陶磁器、陶芸などの工芸品が特産であったのだ。

 現在の宗主になってから、あまりよい政策を打ち出していないようだがな。」


「マレイラ人が納得する墓の形がこれだと?

 墓所というより、宮居みやいのようです」


 半透明の足場が、水面に点々と置かれ、水に洗われていた。

 それが湖の中心に向かい、半円を描く。

 そして、その足場を囲むのは、水面から突き出す乳白色の石柱だ。

 風雨を遮る石柱は天に突き立ち、その天辺には様々な彫像が置かれている。

 柱は湖の中心にある建物を囲む。

 高さは天を突くかという物から、極光の揺らめきのように高さを変え、手に取れるかと思う物まで様々だ。

 その柱一つ一つ、彫像までが、美しさを極めた芸術品であると、誰しもがわかる品である。

 訪れるのに難儀するような場所で、放置されて良いような代物ではない。


「汚れていません」


「たぶん、動物の糞もつかねぇし雑草も生えねぇんだろ。

 そういう塗り物と材質なんだろ。

 どうせ生きた人間は寄り付かねぇから、毒が使われててもわからねぇさ。

 それに石工が削り出した訳じゃねぇのは確かだな。」

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