第696話 帰路にて ⑧
「混合体に子供ができるのか?」
「できるでしょうね。
彼らは人であり、何ら我々と変わりない。
このオルタスで認められた人なのですからね。
我が姫も、生きていれば子を残せたでしょう。
ランドール殿の妹殿下達は、兄君と同じく同時代の混合体でした。
さて、卿も幼年学校で、公王陛下とはどんな存在であるかを習いましたでしょう」
「まともに通ってねぇな」
「辺境地にて布教する渡り神官達の薫陶ぐらいは受けたはずです?」
「まぁそうだな」
「では、幼年学校の復習をしましょう。
中央王国の王は、他の国の王とは違います。
公王と呼ばれる王は、長命人族大公と獣人王家の血をひく混合体がなる職位です。
混血ではなく、混合体です。
公王とは長命種でも獣人種でもありません。
唯一無二の公王という生き物なのです。
その証拠に、その特質は次代に受け継がれない。
妻を娶り子供ができたとしても、その子供が地位を継ぐことはできないのです。
公王の子は、他の種と同じく混血の法則に則り、正常に産まれるからです。
ですので公王陛下が妻を迎い入れ、子供ができたとすれば、それは何れかの公王係累の養子になります。
公王係累とは、公王と同じ混合体や実子等を含む大公一族、及び血族の婚姻先を指します。
そして臣下に下り、何れかの貴族なりと婚姻をする。
公王である混合体は、適正者が継ぎます。
と、これが大まかに子供に教える話です。
貴族位の大人である貴殿なら、公王が命の館にて造られた人である事はご存知でしょう。
特別な人であり、代えがたい王です。
唯一無二としましたが、王は一時代一人選ばれ、残りが支える者となります。」
「予備だな」
「身も蓋もないですが、そのとおりです。
政治的空白を防ぐために、同時代に混合体は複数人造られるのです。
我が姫もその一人として誕生しましたが、臓器配分に不具合が生じ不適格となりました。
まぁ嫌な話ですが、その御蔭で私は縁を結ぶことができたという訳ですね。
さて、現公王陛下であらせられるランドール殿は、正当な御血筋として王となられた。
つまり代替わり時、一番の健康で問題の無い体だったわけです」
「そっちこそ、身も蓋もねぇな」
「臓器配分も過不足無く、肉体も何もかも健康で強靭。
我が姫とは真逆だった。
なので異例ながら成人前に即位となりました。」
「代替わりの混乱は知っている」
より掛かる体が、かすかに強張るのを感じた。
「知っている?
縁起のよろしくない先王のお話ですよ。
貴方の産まれた頃の話です。
知っているのは、知ってもよい話だけでしょう」
「裏話を知って何の得があるんだ?」
「さぁ?年寄りの昔話です。
老い先短い者に、少しはお付き合いください。」
「何が老い先短いだ。
その面で俺の親と同じ年代かと思うと嫌になる」
「親ではありません、卿の祖父母様方と同じ年代ですよ。
ふふっ、顔も口先の嘘と同じく商売道具。
多少の見栄えで相手が侮るなら僥倖ですね」
「で、与太話の続きだ。」
「ランドール殿の先代を、私達は名を失いし者、と呼びます」
「冗談くせぇ呼び方だよな。」
「代替わりの理由はご存知ですか?」
「公式には病死だったか。政治的敗者から名を奪って名誉を失わせたってところだろ」
「当時は、誰もが知っていました。」
「何を知っていた?」
「斬首、処刑ですね。
ランドール殿の前任者は、罪人として処刑されたんですよ。」
王も、裁かれるのか。
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