第317話 暫しの凪 ②

 頭痛は化膿からくる発熱で、生き残る為の自然な症状だ。

 震えも虚脱も熱と絶食からくるものだから、先ずは水分をと白湯を飲まされる。

 まず白湯が飲み下せるのを見てから、白湯に何かを混ぜる。

 薬ではなく、葛と砂糖らしい。

 とろりとしたそれは甘かった。

 多分、普通に飲めば甘さなど感じない程度の加減だろう。そうして水分を少し飲むと、やっと震えが小さくなった。

 神官は大凡若く元気の良い年齢の者ばかりだ。

 こうした場所に来るには足腰の強い者が来るのだろう。

 だからか、彼らは私を子供と見たようだ。

 それも身長や外見だけで、ほんとうに幼いと。

 確かに人族の子供にすれば、幼子からやっと殻がとれた程度の体つきだ。

 まぁ仕方がない。

 問題は、神官の一人が湯桶を抱えてやってきた事だ。

 身体と傷を丸洗いする気だ。

 たぶん、ここに詰めている神官様方は、礼儀正しい方々なのだろう。

 私の真名も性別も、視ようと思えば見える。

 だが、視ない。

 視ても問題はないのだが、もしかしたら貴族階級の方々かもしれない。

 相手の種族などを無断で見るのは礼儀に反するからだ。

 それを見ないので、私が幼く男女の区別もない扱いで良いと考えているのかもしれない。

 そして男女の区別がついている医者は一人獅子奮迅の様相で忙しく、こちらに目配りする余裕がない。

 私が笑顔の相手を困惑してみていると、聞き覚えのある声が助け舟を出した。


「その子は女の子で、多分、子供ではありませんよ。手伝いの女衆におまかせするのが宜しいでしょう」


 サーレルだった。

 神官は笑顔で謝罪すると、他の天幕の女達に声をかける為に離れていった。


「助かりました、ありがとうございます。ですが、旦那、大丈夫なんですか?」


 目鼻口だけは辛うじて包帯がまかれていない。

 つまり、全身衣服から見える範囲すべてが包帯で巻かれている。

 どう考えても重症で歩き回れる姿ではない。


「いやぁ城の火薬設置場所に落ちましてね、吹き飛ばされましたよ。おかげで全身燃えました」

「大やけどじゃないですか、なんで」


 生きてるんですか?

 という言葉を呑む。

 それを察したのか、彼はアハハと笑うと言った。


「この程度なら、問題ないんですよ。重量ってわかります?」

「獣人の重さですよね」

「そうです。

 この重さ、見た目とはまったく違うんです。

 我々は、この人の姿を擬態と呼んでいます。この擬態を解いて獣の姿に変化できるので、大陸の人々は獣人と呼びます。

 ただし、これができるのは戦闘種という重い体の者だけなんです。

 今では、人の姿のまま一部だけ獣に似た特徴を持っている者も獣人と呼んでいます。が、元は隷属民兵への蔑称なのです。

 あぁ話がそれました。

 重いと自己治癒能力にも優れているんです。

 私も準重量という重い種類なので、頑丈なんですよ。

 この包帯は、眉毛まで燃えちゃったからです。」


 ペラペラと喋る姿を見れば、彼が元気なことがよくわかった。

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