第318話 暫しの凪 ③

「カーンなど、顔を合わせた途端。

 何でガキどもが行方不明なのに、お前が寝てるんだ?

 消し炭になっても生きてるんだ、寝てないでガキも探せと言われましたよ。生焼けだったので半端仕事だと、何故かイグナシオにまで罵倒されました。」


 それからサーレルは、私を助けられずに申し訳なかったと謝った。

 ただ、全身焼けて流石に昏倒しており気がついたのは、第一陣の国軍到着時だ。

 つまり私が掘り起こされるちょっと前の事。


「謝る必要はないです、お互い生きていただけ、儲けものです」

「それでも結局、カーンが貴方を助けた。

 子供も見失い、私が無能であるという証拠です。

 この後、見失った子供を探す手筈を整えます。

 それから貴方は体を治す事に専念しましょう。

 カーンが治療療養を手配するようにと指示しています。何も心配いりませんからね。

 体が元気になるまで、お金持ちのカーンが全てなんとかしてくれますよ。」

「勘弁してください旦那」

「安心してください。国で被害者への救済を神殿ともども行うよう指示がでています。

 アイヒベルガーの民以外は、我々が保護し救済をせよとの指示なんですよ」


 そんな会話の後、女衆の元へと運ばれた。

 女衆、たぶん、街の生き残りだろう年配の女性達が炊き出しや、後片付けをしていた。

 布の天幕が設置された場所には、大量の洗濯物と湯が大鍋でいくつも沸かされていた。

 女性達は、傷だらけで足の折れた子供..に見える私を、丸洗いすべく天幕の中の湯おけにいれた。

 姦しく添え木を残して洗われる。

 濡れた添え木は治療の時に交換するそうだ。

 体にある異様な入れ墨を見たろうに、皆、衰弱しきった私を気遣ってくれた。

 痛みと熱で朦朧としながらも、そんな女性達が思ったよりも元気で安堵した。

 これ以上悪くなることはない。

 そして侯爵自身が生きている事が、領民に気力を与えているのだろう。

 ひとつに編んである髪が解かれて、丁寧に石鹸で洗われているうちに、私は意識を失った。

 気絶していたようだ。

 意識が無くなって、目覚めるまでの間は一瞬で、気絶していたのだとわかるのは、治療が終わっていたからだ。

 体中が薬臭い。

 添え木も変えられて固定された足は痛みが小さくなっていた。

 肩も縛って押さえがきちんとされたのか、そちらも鈍い痛みに変わっている。

 ただ、あいも変わらずの怠さと震えが続いていたが、それが飢餓感であるとやっと感じる事ができた。

 頭の下には高さをもたせるためか、折りたたんだ布が差し込まれていた。

 おかげで息が楽になり、意識もはっきりとしてくる。

 そうして寝かされている自分を見れば、見たこともない女児の服が着せられていた。

 女児の服とわかるのは、それが胸のあたりで切り替えが入った、北の民族衣装だったからだ。

 すくなくとも、私としては女児よりも成長しているつもりだが。

 まぁ物騒な世の中だ。

 身を守るには年齢はともかく女児よりも男児の衣装であったならと思う。

 思うが、女衆の好意には感謝を覚えた。

 せめてこの衣類の持ち主も無事であることを願うばかりだ。

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