第817話 挿話 陽がのぼるまで(中)⑧

 多分、心だけでも救われたいという願いを、汚い言い訳と受け取ったのだろう。


「原因は何であれ、為した全てはお前の父親が元だ。

 悪気がなければ無罪だと言う気か?

 人を殺して手違いだったで済ませるか?

 謝れば、死んだ人間が生き返るのか?」


「生き返らないわ。

 少なくとも、元には戻らない。

 わかってるわ。

 せめて本当の事が知りたいの。

 自分の人生を偽りたくないの。

 貴方が言う通り、罪人の子として生きるのなら、余計によ」


「本当の事は、もうわかっている。

 お前の父親は処刑済みだ。

 祖父の告白が何にせよ、何もこれ以上は変わらない。

 さぁ戻れ、お前の祖父がどうなるかは、まだ、わからない。

 お前も、くだらない世迷い言を言わなければ、今までと変わらずだろう」


「監視の元での労役かしら。

 くだらない事を言ったら?」

「まぁ今より不自由な場所での労役だろう」

「教えてほしいの」

「何がだ」

「私をなぜ生かしているの?」

「どういう意味だ?」


「私が生きて苦しめば、皆の気が済むんでしょ?

 殺す理由がないから生かしているの?

 教えてほしいの、私の罪状は何?

 家族を庇う発言をしたら、労役刑。

 自由に物を言ったら、監獄で強制労働?

 私が生きて苦しめば苦しむほど、皆が幸せになるの?

 教えてほしいの、私の何が罪なの?

 減らず口を黙らせたいから?

 あの時、私は子供だった。

 大人の都合に振り回される子供だった。

 生き残ったのも、生きている事も、自分で選んだんじゃない。

 ねぇ私が何をしたのか教えてよ。

 憎まれるのも蔑まれるのも疲れたわ。

 私に何が選べたのか、賢い貴方は知っているんでしょう?」


 私の言葉に、男は大きなため息を吐いた。


「お前を監視下に置くのは、不埒な人間から守る為でもある。

 労役をかしているのも、財産を無用な争いで奪われない為でもある。

 実際の話をすれば、お前が母親や祖父の庇護を外れたならば、どこぞへと暮らしを移してもいいはずだ。

 お前の保護者の移動や自由の制限があるからこそ、お前は居住地を定められている。

 何度も言っているが、お前がロッドベインの子でバーレイの孫だと主張するかぎり、その負債を背負わねばならない。

 お前があれら家族と縁を切るならば、監視も緩め、何ら暮らしを縛る事も無いだろう。」


「私から家族もとりあげるの?」


 泣きたくない。

 嗚咽をこらえたら声が小さくなった。

 私が彼らの子供だから、ずるい手段で生き残ったから、だから苦しむのは当然だって事よね。

 でも、私は家族を手放したくない。

 私はバーレイの孫であり、ロッドベインの娘なのだ。


「幾万の民が死んだ。

 その元となった反乱の首謀者の一族郎党、政治基盤を同じくする者どもは処刑が妥当だ。

 だが、お前は子供であり、憎まれ役を生きて果たすバーレイがいた。

 だから、お前は生きている。

 お前も連座とすれば、更に苛烈な処断を広範囲にくださねばならない。

 今度は無用な迫害の騒ぎになろう。

 実行犯のみを処刑としたのは、その為だ。

 だが、それで納得できる人間は少ない。

 お前が何かをしたからではない。

 それを酷いと言うが、無念のうちに死んだ者の数を考えれば、彼らこそ酷いと言いたいだろう」

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