第196話 フリュデンへ ②
侯爵は当然、私達が城塞跡へと向かうのを渋った。
エリは城で暮せばいいし、シュランゲについても、すべてが落ち着けば改めて調べようとまで約束した。
確かに贅沢に暮らせるかもしれない。
けれど、それも侯爵が生きている間の事だ。
毒見役としての人生も、エリに選ばせたくない。
もちろん、侯爵は毒見役として側に置くとは言っていない。
最近は、エリを近くに寄せて、色々と話をしたりしている。
エリは喋れないが、真面目に頷いたりして、よく話し相手をつとめていた。
そして侯爵の手に触れては、軽く叩いては何かを伝える。
家族を失った侯爵を慰めているのかも知れない。
エリも失ったばかりだ。
しかし、一度はレイバンテールの奥方に会い、エリを覚えているかを確認せねばならない。
奥方に是非にも自分も会いたい。とは、サーレルも言い出した。
そして意外にも、ラースもレイバンテール氏に話があるので、一度、城館を離れるのを侯爵へと願った。
ラースの願いに、侯爵は表情を無くした。
じっと相手を見つめる目は、暗くとても冷たかった。
対するラースはいつもどおり、侯爵を気遣わしげに見つめて眉を下げる。
「我が是とする理由を、理解しているか?」
「はい」
「汝の慈悲心は美徳ではない事も」
「はい」
「我は、謝罪はせぬ」
「申し訳ございません」
「汝も謝罪をしてはならぬ。
よい。必ず戻れ」
結局、私達はラースの案内で、フリュデンへと向かう事になった。
「楽しみですねぇ、フリュデンの街の作りは面白いそうですよ。
選別した金属類を軍に送る手配をしたら、次はあちらの街も散策しましょう。
きっとたくさん見つかるかも知れませんね」
フリュデンへの同行は、サーレルにしても仕事になる。
接収した金属の毒を軍部が興味をもち回収をするよう指示が届いていた。
敵対勢力になるレイバンテールが、未知の毒物を持ち込んだ可能性は大きい。
奥方はシュランゲの出身で、そのシュランゲは壊滅。
嫡子が亡くなるのと前後するように、村が消えている。
無関係ならば良いが、侯爵本人と周辺の態度が、どうもはっきりとしない。
そんなアイヒベルガーの内乱の気配は、彼にとっては娯楽であろう。
様々な思惑があるだろうが、私にとっては何一つわからないし、他人事だ。
これらの全ては、私が推察するだけの話で、実際はもっと単純な話なのかも知れない。
夢見が悪い私が、考えすぎているだけかもしれない。
この城館のどこかに、朽ちぬ男がいるのではないか。
朽ちぬ男と共に、もっと何か得体の知れないモノがいるのではないか。
と、私は恐れていた。
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