第411話 木の葉の船 ③

 まぁ他人の本音など、わかるわけもない。

 ボルネフェルト少年が囁く意味ありげなお喋りも、嘘か真か不明である。

 美しい女性が大好きなのは本当だとしてもだ。

 そしてニルダヌスと二人の関係も見ただけではわからない。

 見たままは、厳格な年長者を敬う二人だ。

 そして年長者は、身分上の二人を敬いつつも、娘や孫に色目を使ったら容赦はしないという態度。


(でも、ちょっと違う。

 まぁそんな詮索よりも、他に気にする事があるんじゃないかなぁ)


 それもそうだ。

 オービスとスヴェンは、人相こそ恐ろしいが、私には危険な人物には思えなかった。

 女子供を恐ろしい目にあわせる人物ではないと思う。

 よく知らぬ人なのにと、怒られそうな考えだが。

 ただこの二人は、どこか無邪気な雰囲気があるのだ。

 大人で大きな男なのにだ。

 まるで、子供のような。


(子供のように純粋で、無邪気。

 そして暴力の世界においては、躊躇いがないのさ。

 まさに獣人だね。)


 ..獣人けものびと


(そうさ。

 中庸も中道も、灰色も無いのさ。

 敵か味方か。

 それが基本の考え方さ。

 ほら、また他所事に気を配って。

 ほらほら、巫女が心配そうに君を見ているよ。

 ぼんやりしていると、また、お小言だ。)


 わかってる。

 いよいよ考えがずれるのは、見落としが無いか不安なのだ。

 私の見落としで、悪いことがおきないか不安なのだ。

 先程から、何か座り心地のわるい気分を感じている。

 何を見落としているのだろう?

 を見落としてはいまいかと。


(オリヴィア)


 違う。

 食前の祈りを忘れてはいけない。


(オリヴィア、わかってるよ。

 落ち着いて。

 彼らの話じゃないのは、わかっているよ。

 気になっているのは彼らじゃないから、どうでもいい話題を続けている。

 大丈夫、落ち着いて。

 君は気がついた。

 彼らの話をしきりに持ち出しているのは、気がついたからだ。

 でも、いいかい?

 繰り返すよ。

 何があろうとも、のだ。

 そして、君は供物であり、僕達の主だ。

 僕達は、を見定めるのみだ。

 あぁ怖がるなとは言わないよ。

 でもね、怯える話じゃないんだよ。)


 私は祈っているのだろう?

 食前の祈り。

 明るい食卓につき食事を前にして。

 私は、考えている。

 だ。

 あの亡くなった神官の部屋にがあった。

 お茶の席にもある。

 どの部屋にもある。

 廊下にもある。だが、あの部屋にはなかった。


 あの部屋には、


 燭台、蝋燭、火屋のついた灯りも、何一つ灯りが無い。

 たまたまか?

 燭台を片付けた?

 窓の黒布を下げたら、何一つ見えない暗闇だ。

 そして暖炉。

 暖炉は使われていなかった。

 煤ひとつ無かった。

 どうやってあの部屋を温めていたのだろう?

 まるで、始めて使うようなきれいさだった。

 ビミンは薪やら火種を持ち込んで、温めたのだ。

 今も火種は残している。


 無人だから、部屋の火の気を取り除いていたのだろう。

 全てが気の所為だ。


(聞いてみればいい。

 あの部屋に灯りがないので、手元が暗いとね。

 これなら自然な質問でしょ?)


 いらぬ助言に口を曲げた。

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