第410話 木の葉の船 ②

 小山のような大男が二人、椅子に行儀よくおさまっている。

 皆に挨拶し着席するとビミンがお茶を注いでくれた。

 私がお客様待遇なのは、歩けると言っても杖を手放せないのもある。

 足が良くなったら、今後は台所の手伝いにも入る予定だ。

 お茶を注いで回るビミンに、小山二つも恐縮している。

 ここのところ毎日とは言わずとも、カーンの仲間が順繰りに奉仕活動に来ていた。

 今日は、この凶相、ではなく獣人らしい容貌の二人組のようだ。

 早朝から力仕事をこなしていたようで、ビミンの母親に顎で使われていたらしい。

 らしいというのは、二人が嬉しそうに自ら申告しているからだ。

 教会の仕事をと言うより、ビミンの母親の手伝いに来たのが主な目的になっている。

 たぶん、二人共本心だ。

 考えるまでもなく、美人な母娘の手伝いなら無給でも良いといった二人である。

 等と言うと、非常に嫌な男達に思えるだろう。

 けれど二人は外見を裏切る紳士ぶりだ。

 振り返るに、彼らは山賊海賊のような外見を裏切る、気遣いをもっていた。

 エリに笛を渡したのはオービスだし、子供に聞かせたくない話は口を噤む。

 実に紳士な二人なのだ。

 こうしてお茶の席についても、ひたすら女性を賛美しているだけ。つまり近寄らず口だけだ。

 きっとこの二人は自分たちが普通の人族や女性たちにどう見えているのか分かっているのだろう。

 もちろん、美人が大好きなのも本当だ。

 そして紳士なのも、実は巫女様の威光か、ニルダヌスの視線の抑止力があるからとも考えられる。

 ニルダヌスは常に低姿勢だが、娘や孫に何者も傍に寄らせないように気を配っていた。

 そしてそれはオービスやスヴェンに対しても同じであり、彼ら二人も程々の距離を取っていた。

 その気迫は男二人を圧倒している。

 けれど、何か見えない会話が通っているようにも見えた。


(そりゃそうさ。この二人は蛮族じゃないんだからね。それにどこぞのに来ているのさ)


 質問はしない。


(まぁいずれ、わかるよ。彼らのなんて、ちょっとした料理に振りかける胡椒のようなものさ。

 それにの方も、娘と孫にちょっかいかける者と刺し違えるぐらいの気構えはあるからね。自分はを刺激するほど、この二人は馬鹿じゃない。

 そしてそんな彼らが何者か、このは知っている。

 見た目とはまったくなのさ)


 目の前では、学習能力が無いのか、美人な母娘に話しかける小山ふたつと、話の途中に割って入るニルダヌスの咳払いが続いている。

 この妙に平和な景色も、実は違う見方があるのだろう。


(いや、これは見たままだよ。

 馬鹿二人が父親の前で鼻の下を伸ばして叱られているだけだ。

 流石に本気ではないだろうと思っていたけど、この二人は救いようのない女好きだね。)


 なるほど。見たままでいいようだ。

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