第409話 木の葉の船

 管理人の親子、祖父のニルダヌスは、その穏やかな態度や物腰を別にすれば兵士のようだった。

 元々、南部の人だ。

 きっと兵士だったのだろう。

 彼の妻は長命種人族で、東の出身だったそうだ。

 人種差別が激しい土地柄で、どうやって彼らが結婚したのか不思議だ。

 そういえばクリシィの親もそうだった。

 やはり本音や建前を別にして、種族忌避の態度は全ての人には当てはまらないのだろう。

 そのニルダヌスの娘、ビミンの母親であるレンティーヌの容貌は、人族の人そのものだった。

 かろうじて、孫娘のビミンだけは、可愛らしい獣の耳とキラキラした瞳が獣人の様を残していた。

 どちらにしろ、この母と娘の容色は、大陸の大凡の人種から美しいとされるものだった。

 神殿縁の地方教会で下働きをしているのが不思議なほど、まぁつまり垢抜けていた。

 かといって彼らが派手派手しい暮らしを望んでいる様子は無い。

 美味しい料理をつくり、静かに日々生活の細々とした仕事を片付けていく。

 そしてビミンはと言えば、町の者達とは距離をおき、意外な事に教会の隅で時間があれば書物を開いていた。

 聞けば勉強したいのだそうだ。

 何れ大きな街か都にでもでて、きちんとした教育を受けるか、身をたてる手段を探したいらしい。

 料理の腕もあるし、軽量ながら獣種なので力もある。

 今は事情があってここを離れられないが、何れは自分で稼いで暮したいそうだ。

 と、まぁ余計な話だったが、つまり大量に供される食事は美味しい。

 量は別として、食事以外のお茶の時間も楽しいものだ。

 教会は町の者からの差し入れもあるので、食生活は本神殿より豊かだ。

 本神殿は、あれで質素倹約を旨とし、贅沢は何かの行事の時とされている。きっと大勢の暮しがあるので、そうそう贅沢はしないのだろう。

 そして私はと言えば、ひとり村の家で暮していた頃。

 一日二食の間食無しだった。

 神殿に移ってからは、三食に間食一回。

 ここにきて、更にお茶の時間も増えたのだが、いっこうに身にならない。

 肋が浮き出た胴に骨ばった手足。

 余計な肉は残っていない。

 残念ながら、間食はまたも量への挑戦をしなければならない。

 今日の午後のお茶は、会食ができる大きな方の食堂だ。

 手を洗い嗽の後に廊下を進む。

 午後の日差しは陰り、もう薄暗い。

 寒々とした空気の流れに、できうるかぎり急いで歩く。

 そうして美しい模細工が施された食堂の扉に手をかけた。


「すみません、遅くなりました。」

「おぉ、かまわぬ、よ。儂ら、も、今、座った、ところ、だ」

「うむ、おうおうどうした?骨と皮ではないか。はやく中にはいれ」


 かかる声の方へと目を向ける。

 視線の先には、見たことのある二つの小山だ。

 片方は悪気なくニヤッと笑うが、どうみても山賊のよう。

 そして相方も同じく、どうみても堅気に見えない。


「オリヴィア、だった、な。久方ぶり、じゃな」

「顔色がまだまだ悪いが、ひとりで歩けるようでなによりだ」


 オービスとスヴェンの二人だった。

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